家族に認知症の疑いがある場合、早期診断・早期治療はもちろんですが、将来を見据えて必要な手続きを済ませておくことが重要です。
認知症への対応を先延ばししてしまうと、症状が悪化するリスクに加え、契約トラブルや相続トラブルに発展することも考えられます。
しかし家族の認知症による不安やプレッシャーのもとでは、必要な手続きを冷静に進めることは難しいかもしれません。
そこで本記事では、認知症が疑われる初期症状や、認知症になったら必要な手続き、今後の流れについて解説します。慌てることなく認知症へ対応するために、ぜひ最後までご覧ください。
家族が「認知症かも?」と疑われる初期症状
家族の認知症を悪化させないためには、「認知症かも?」と疑われた段階で病院を受診し、早期治療を始めることが大切です。ここでは認知症の主な初期症状として、以下の3つについて解説します。
- もの忘れの悪化
- 時間・場所が認識できない
- 感情の起伏が激しくなる
これらの初期症状に当てはまる場合には、早めに「もの忘れ外来」などの認知症専門医に相談してみましょう。
もの忘れの悪化
認知症の特徴として挙げられる「もの忘れ」には、加齢によって記憶力が低下しているケースと、認知症の症状(記憶障害)として現れるケースの2つがあります。
その中でも認知症による「もの忘れ」では、体験した物事自体を忘れてしまうことに加え、物事を忘れている自覚がないことが特徴です。
たとえば、記憶力の低下によるものであれば「夕食に食べたものが思い出せない」「知り合いの名前が出てこない」といった程度ですが、認知症では「夕食を食べたかどうかわからない」「知り合いが誰かわからない」といった症状となります。
もの忘れが認知症によって悪化すると、「薬を飲んだかどうかわからない」「自宅への帰り道がわからない」など、日常生活にも支障をきたすことがあるため早めの対処が必要です。
時間・場所が認識できない
認知症になったら症状が進むにつれて、時間・場所などの基本的な状況が把握できなくなる「見当識障害」を引き起こします。
現在の日時や自分がいる場所が理解できなくなることが特徴で、時間の感覚が薄れることで待ち合わせの時間や病院の予約の日時を忘れてしまうケースが増加します。
今日が何日なのかわからなくなったり、季節の感覚が薄れて真冬に半袖を着たりする行動も見られます。また、自分がいる場所についての感覚が低下すると、外出したまま帰ってこられずに迷子になるリスクも高まります。
認知症の見当識障害は、時間の感覚が薄れることが主な初期症状のため、家族との会話の中で時間・日付への感覚に違和感を持ち始めたら、認知症を疑い始めた方が良いでしょう。
感情の起伏が激しくなる
認知症になったら見られるようになる初期症状として、感情のコントロールが難しくなり、怒りや悲しみなどの感情の起伏が激しくなることが挙げられます。
このような状態は「感情失禁」とも呼ばれ、暴言・暴力を伴ったり、急に泣き出したりする様子が見られます。
抑うつ状態に発展することも少なくないため、感情の起伏が激しくなったと感じる場合や、不安・戸惑いによってふさぎ込んでしまっている場合には、認知症の兆候と判断した方が良いでしょう。
家族の認知症対応を放置した場合のリスク
家族が認知症になってしまったことを認めるには勇気が必要で、まだ元気な様子が見えるうちは認知症への対応を後回しにしてしまいがちです。
しかし認知症への対応はどれだけ早くても早すぎるということはなく、早期診断・早期治療によって健康寿命を延ばせるメリットも得られます。
一方で認知症対応を放置してしまうと、以下のようなリスクに直面することとなります。
- 生活習慣病が悪化するリスク
- 事故・行方不明になるリスク
- 銀行預金・不動産契約が動かせなくなるリスク
- 遺産・相続トラブルが悪化するリスク
それぞれのリスクについて理解し、認知症への早期対応の重要性を改めて押さえておきましょう。
生活習慣病が悪化するリスク
認知症の進行を放置してしまうと、薬の飲み忘れや生活習慣の乱れによって、生活習慣病が悪化するリスクが生まれます。
決められた量以上の薬を飲むことにより、命の危険に発展するケースも考えられます。
栄養バランスや食べる量を気にせずに食事をしてしまうことで健康を害してしまうこともあれば、必要なカロリーを摂取できずに衰弱してしまうことも懸念材料です。
事故・行方不明になるリスク
認知症への対応が遅れることで、交通ルールが理解できなくなったり、帰り道がわからなくなったりすることによる事故・行方不明に巻き込まれるリスクが高まります。
外出先で道に迷ってしまい家に帰れなくなれば、熱中症や脱水症状、低体温症などを引き起こす可能性もあります。また、認知症の方が自動車を運転してしまうと、他者の命を奪うことにもなりかねません。信号無視や車道への飛び出しにより、命に関わる事故につながりやすい点にも注意が必要です。
銀行預金・不動産契約が動かせなくなるリスク
認知症によって家族の判断能力がなくなったと判断されると、銀行預金や不動産契約などを動かせなくなるリスクが生じます。
たとえ家族が認知症の治療費を工面するために親の口座からお金を使いたいと思っても、資産凍結により引き出せなくなる事態に発展してしまいます。
また、実家を売却して治療・介護のための資金に充てたいと思ったとしても、名義が認知症の方本人の場合には、不動産の契約手続きができなくなってしまいます。将来を見据え、判断能力があるうちから老後の介護・治療に備えておかなければなりません。
遺産・相続トラブルが悪化するリスク
認知症への対応を先延ばしにしていると、遺産・相続トラブルに発展する危険性も高まります。
たとえば、認知症の方の配偶者が亡くなった場合に遺産分割協議に参加できなくなったり、相続放棄の手続きが困難となったりすることが考えられます。また、認知症の方の資産管理について、親戚同士でトラブルになることも少なくありません。
判断力の低下により不要なものを大量に購入して借金が膨れ上がったり、実家の片付けに多大な労力が必要になったりするケースもあります。
そのため認知症の方の意思が法的に有効であるうちから、「認知症になったらどうするか?」と将来の方針を考えておくことが大切です。
家族が「認知症かも?」と思った時にまずやるべきこと
家族の認知症が疑われる場合、なるべく早い段階から以下のような対応に取り組むことが大切です。
- 家族全員で認知症への理解を深める
- 医療機関に相談する
- 家族の財産や相続について確認しておく
それぞれ詳しく解説します。
家族全員で認知症への理解を深める
認知症になったらまず、配偶者や子ども、兄弟などを含めて家族全員で認知症についての理解を深めておくことが大切です。
認知症の主な症状や、早期診断・早期治療によって進行を緩やかにできる点、認知症の方本人の不安や混乱について把握し、家族で協力しながら認知症をサポートすることが大切です。
あなた一人で抱え込むのではなく家族全員で認知症について共有することにより、精神的な不安が軽減されることに加え、通院・介護や金銭的な援助を受けやすくなるでしょう。
医療機関に相談する
「もの忘れ外来」などの認知症の専門医を受診していない場合には、医療機関で相談してみることが大切です。
病院に向かうことに抵抗がある場合には、地域包括支援センターを頼ったり、かかりつけ医と相談して健康診断を促したりするのも効果的です。
認知症になったら早期診断・早期治療が重要になりますので、受診を後回しにしないように心がけましょう。
家族の財産や相続について確認しておく
認知症になったら診断・治療に加えて、財産や相続についても確認しておく必要があります。
認知症によって判断力がなくなったと判断されると、資産凍結されて治療のための費用を用意できなくなるリスクがあるためです。
資産凍結によって将来の相続手続きに影響することも考えられるため、早めに財産の内容について把握しておきましょう。
家族が「認知症かも?」と思った時の今後の流れ
家族の認知症が疑われる場合、今後は次のような流れに沿って診断・治療に取り組むこととなります。
- 認知症の診断
- 要介護認定の申請
- 認知症の治療・投薬
- 福祉・介護サービスの利用
認知症の方の介護のために訪問介護・デイサービスなどの介護保険サービスを利用したい場合には、自治体へ「要介護認定」の申請を行い、要介護状態であると認定される必要があります。
家族の介護負担を抑えつつ認知症の方を支えていくためにも、かかりつけ医と相談しながら介護保険制度の利用を検討しましょう。
関連記事:認知症の親を病院に連れて行く方法は?受診しないとどうなるかも解説
家族が認知症になったら必要になる手続き
最後に、家族が認知症になったら必要になる手続きとして、以下の3つについて詳しくご紹介します。
- 要介護認定の申請
- 家族信託や成年後見制度の手続き
- 金融機関での資産凍結対策
医療機関で認知症であると判断されたら、病院や自治体などの助けを借りながら忘れずに手続きを進めましょう。
要介護認定の申請
認知症の介護保険サービスを利用するために必要な「要介護認定」を申請するためには、本人または家族の方が自治体の窓口から手続きする必要があります。
申請時には、介護保険被保険者証または保険証と、介護保険認定申請書を提出する必要があります。要介護認定の申請は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに手続きを代行してもらえることがあるため、日中はお仕事などで時間が取れない場合に活用してみましょう。
家族信託や成年後見制度の手続き
「家族信託」は、判断能力があるうちに契約を結んだ家族に、財産管理・運用を任せる制度。
「成年後見制度」は判断能力が不十分な方の不利益を回避するため、認知症の方本人に代わって契約行為・財産管理を行う制度です。
いずれも認知症の方の財産を管理し、資産凍結を避けて治療・介護費用を用意するために効果的な仕組みです。
ただし、制度を利用するにあたってさまざまな条件や手続きが設けられているため、司法書士などの専門家を頼りながら検討してみると良いでしょう。
金融機関での資産凍結対策
認知症になったら判断能力の低下によって資産凍結されてしまわないよう、早めに銀行へ相談してみることも重要です。
金融機関によっては、資産凍結対策・相続対策に役立つ代理人制度などを提供していることもあります。
ただし、認知症の診断を受けた後に金融機関に連絡した場合、その場で口座が凍結されることも考えられるため、認知症が疑われ始めたタイミングで早めに相談することが大切です。
まとめ
認知症の初期症状が見られ、家族の認知症が疑われる場合には、生活習慣病の悪化や金銭トラブルに発展することを防ぐためにも、早期診断・早期治療を心がけることが大切です。
事前に家族全員で認知症について共有しておき、将来の相続も視野に入れながら財産管理を進めると安心です。
家族が認知症になったら必要な手続きとして、要介護認定の申請や家族信託・成年後見制度の手続きなどが挙げられます。
認知症と診断された後は、病院や地域包括支援センターの支援を受けながら、今後の具体的な流れを確認しつつ準備を進めていきましょう。
認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます。
当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。
なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。
※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。
まずは下記からご相談ください。