家族の認知症の介護にもう限界…心を軽くするための解決策【医師監修】

認知症の家族の介護に携わる方の中には、介護疲れで気分が落ち込んでしまったり、現状の生活に限界を感じてしまったりする方が多くいらっしゃいます。

負担増により介護者の方が介護うつを引き起こしてしまえば、認知症の方のサポートが成り立たなくなり「共倒れ」となる危険性も高まります。

そのため認知症の家族を介護することに疲れた場合や、介護に限界を感じた場合には、状況を改善する根本的な解決策を探る必要があります。

本記事では介護疲れを引き起こす原因と適切な対処法、認知症介護による心の負担を減らすためのポイントについて解説します。

目次

介護疲れは介護うつ・介護放棄に至るケースも

落ち込む女性のイメージ

認知症をはじめとする家族の介護は、心の準備ができる前に突然やってくるものであり、介護者にとっては急激な生活の変化によって大きなストレスを抱えることも少なくありません

ご自身の家族が要介護者となったことへの不安や、何から手をつけたら良いのかわからずに焦ってしまう気持ち、金銭的・時間的な負担が原因で、介護疲れを引き起こすことは珍しいことではないのです。

特に家族の介護を優先するために「介護離職」をした場合には、収入が途絶えることへの不安や1日中介護の必要に迫られることへのストレスが積み重なってしまいます

また社会とのつながりが薄くなり、相談できる相手も減ってしまうことが介護疲れを加速させる原因にもなります。

家族の介護に限界を感じた頃には、精神的に参ってしまい、「介護うつ」を発症してしまったり、「介護放棄」によって状況を大きく悪化させたりする危険性も高まります。

このような状況に陥る前に、介護者の方はすべての介護を自分で行おうとするのではなく、周囲のサポートを最大限活用しながらご自身の生活を守ることが重要です。

家族の認知症で介護疲れに発展しやすい2つの原因

悩む女性のイメージ

家族の認知症介護では、身体的な負担に加えて精神的な負担も大きくなるため、介護疲れに発展しやすい傾向があります。

中でも「認知症の周辺症状が強く現れている場合」、そして「介護者の体調が悪化している」場合には注意が必要です。

1. 認知症の周辺症状が強く現れている

認知症には、記憶障害や見当識障害などの中核症状に加え、徘徊・幻覚・不眠・暴言暴力といった周辺症状が現れることがあります。介護者にとって特に大きな負担になりやすいのが、この周辺症状の悪化です。

夜間の徘徊によって精神をすり減らしてしまう、昼夜逆転の生活で介護者の睡眠不足を招く、暴言や暴力がエスカレートして命の危険を感じるなどの状況に置かれた結果、身体的/精神的に深刻な影響を及ぼすことも考えられます

2. 介護者の体調が悪化している

認知症介護が始まった当初は、穏やかに接することができていたものの、介護疲れが原因となって、介護者自身の体調不良がみられる場合には注意が必要です。

介護者の体調の悪化は、介護の継続が困難となるだけではなく、介護うつや虐待行為に発展する危険性もあります。

そのため介護者自身の体調の悪化を自覚した際には、一刻も早く周囲のサポートを受けることが大切です。

家族の認知症介護で限界を感じた時におすすめの解決策

相談を受ける女性のイメージ

家族の認知症介護で介護疲れや限界を感じた時には、それ以上ご自身で介護を頑張ろうとするのではなく、これまでとは違ったアプローチで介護と向き合うことが大切です。

認知症介護の負担を軽減するための解決策としては、以下の4つの方法が考えられます。

  1. 認知症の専門医に相談する
  2. 介護保険外を含めた高齢者支援サービスを活用する
  3. 介護施設への入居を検討する
  4. 認知症介護への向き合い方を見直す

上から順番に詳しく解説していきます。

1. 専門医に相談し、認知症の方の入院も検討する

認知症介護に限界を感じている現状を変えるためには、まず、介護者(あなた)自身が、認知症の専門医・精神科での相談・診察を受けるのがおすすめです

認知症の専門医は、認知症介護の大変さをよく理解し、適切なアドバイスを授けてくれます

なお、認知症での入院は可能です。認知症治療を専門としている病院や精神科では、進行を遅らせるための治療を実施してくれます。

当院・丹沢病院での「もの忘れ外来」では、介護者の方のみでも、専門医にご相談できる外来を設けています。

まずは現状を理解するためにも、そしてあなた自身の悩みを打ち明けるためにもまずはご相談ください

なお、家族を病院へ連れて行くためのポイントについては下記の記事をご覧ください。

2. 介護施設への入居を検討する

自宅での認知症介護に限界を感じる場合には、特別養護老人ホームをはじめとする介護施設への入居を検討することも効果的です。

ご家族が安心して暮らせるように在宅介護を選ぶ方は少なくありませんが、認知症の方との距離が近いことで介護負担が重くなり、介護者が限界に達してしまっては本末転倒です。

施設介護では介護者の負担が軽減されることに加え、他の入居者の方とのコミュニケーションにより症状の進行を抑えられるケースも考えられます。

施設の空きがなく入居を断られてしまった経験がある方も、現状の介護負担についてケアマネジャーに繰り返し相談し、ご自身でも希望エリアを広げながら入居できる施設を探してみると良いでしょう

3. 介護保険外を含めた高齢者支援サービスを活用する

認知症介護では要介護認定を受けることで介護保険サービスを受けることができますが、現状でも介護疲れが蓄積してしまう場合には、「介護保険外サービス」の利用も検討してみることをおすすめします。

介護保険外サービスでは、掃除・料理・買い物などの日常生活援助や、リハビリ目的以外の散歩や外出など、公的な介護保険ではカバーしきれない支援を受けることができます

すでに訪問介護やデイサービスといった介護保険サービスを活用していても負担が重く感じられる場合には、兄弟や親戚から援助を受けるなどして費用負担を抑えながら、保険外サービスを積極的に利用してみると良いでしょう。

4. 認知症介護への向き合い方を見直す

認知症介護で介護疲れを感じてしまう方の中には、ご自身の生活や幸せを犠牲にしてまで、ご家族の介護を優先してしまうことがあります

ご家族を想って行動できることは素晴らしいことですが、それが原因で共倒れを引き起こすような事態や、ご家族に対してネガティブな感情が募ってしまうことは避けなければなりません

認知症介護はいつか終わりを迎え、介護者の方も誰かを介護する必要がない生活に戻ることになります。その際に亡くなった家族を恨んでしまったり、生活の再建が難しくなったりしないためにも、あくまでもご自身の生活や幸せを第一に考えながら無理のない範囲で介護に携わる意識を持ちましょう

家族の認知症介護で心の負担を減らすためのポイント

開放感のイメージ

認知症介護で限界を感じてストレスやプレッシャーを抱え込まないためにも、介護者自身の心のケアを行うことは重要です。金銭的・時間的な理由で現状を変えることが難しい場合には、心の負担を減らしながら認知症介護に向き合うためにも以下のポイントを参考にしてみてください。

  • 義務感や罪悪感を手放す
  • 他の家族と比較しない
  • 感情のはけ口を作る

上から順番に解説していきます。

義務感や罪悪感を手放す

認知症介護が限界を迎えて生活が破綻することがないよう、家族の介護に対して強い義務感や罪悪感を抱くことを避けるようにしましょう

民法では親の介護は子の扶養義務に含まれると定めています(※)が、ご自身の心身のバランスを崩してまで介護を強制されるわけではありません。

認知症介護がご自身の義務であると考え、介護負担を減らすことに対して罪悪感を抱いてしまうと、介護うつ・介護放棄などの取り返しのつかない事態を招くこともあります。

すべてを自分一人で抱え込もうとするのではなく、利用できる支援サービスは最大限利用し、兄弟・親戚やケアマネジャーなど周囲の人と助け合いながら介護に向き合いましょう

※877条1項より:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089#Mp-At_877

他の家族と比較しない

認知症介護に携わる他の家族を見て、ご自身の家族と比較してストレスを抱えてしまうことも少なくありません。しかし認知症の症状や進行度は人それぞれで異なり、決まった形があるわけではありません

認知症介護について周囲と比較してしまうと、「あの人たちが在宅介護しているのに、自分たちが施設に入れるのは抵抗がある」「●●さんのところは兄弟全員で介護しているのに、うちは私一人しか介護していない」などと、ネガティブな気分になりやすくなります

大切なのは、ご自身とご自身の家族にとっての幸せな形を叶えることです。

他の家族と比較することはせず、ご自身にとって最適な形で介護に向き合うことを大切にしましょう。

感情のはけ口を作る

認知症介護は精神的に負担が大きいことで知られ、介護者への感情的なストレスも増えやすい傾向があります。

そのため辛い気持ちや苦しい感情を吐き出すことなく抱え込んでしまうと、ネガティブな感情が抑えきれずに介護うつ・介護放棄を招きやすくなります

介護に向き合う中で生まれるネガティブな感情は、恥ずかしいものでも否定されるべきものでもありません。

信頼できる家族や認知症の専門医に相談し、ご自身の感情や悩みを共有することを心がけてください。

まとめ

認知症の家族の介護に疲れた経験や、限界を感じた経験を持つ方は少なくありません。認知症は徘徊・不眠・暴言暴力などの周辺症状が介護者の大きな負担になることが多く、介護うつ・介護放棄を招きやすい傾向があります。訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを利用し、介護負担をできるだけ軽減したとしても、介護疲れが蓄積することは多いでしょう。

認知症介護で疲れてしまった心を軽くするためには、介護保険外サービスの利用や介護施設への入居、認知症の専門医への相談を通じて、これまでとは違ったアプローチで介護に向き合うことがポイントです。義務感や罪悪感を手放し、ネガティブな感情や悩みを共有できる相手を見つけることも、介護者の心のケアに効果的です。

本記事でご紹介してきた認知症介護の負担への対処法をもとに、認知症の方にとっても介護者の方にとっても最適な介護のあり方を見つけましょう。

当院・丹沢病院について

認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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