【医師監修】認知症介護時のイライラへの対処法一覧|ステップ毎に解説

認知症の介護は、家族にとって大きな心身の負担となります。

その負担の大きさから、介護中にイライラを感じてしまう方は多く、深刻なストレスや疲労の原因、介護の質に悪影響となるケースは珍しくありません。

しかし適切な対処法を知っておけば、イライラに上手く対処し、ネガティブな感情の悪循環を断ち切ることが可能です。

当記事では認知症介護のイライラの原因と対処法を詳しく解説します。在宅介護中の方がすぐに実践できる具体的な方法を解説していますので、日々の介護に前向きに取り組むヒントを見つけて下さい。

目次

なぜ認知症介護ではイライラを感じてしまうのか?

認知症介護ではさまざまな要因が複雑に絡み合い、介護者のイライラやストレスを引き起こしています。イライラへ対処する前に、まずは何が原因となっているのかを把握しておきましょう。下記ではイライラを感じる主な原因について解説します。

原因1. 認知症被介護者の特有の行動

認知症被介護者は脳の機能低下により特有の行動が生じ、介護者の負担となるケースが多く見られます。例えば下記のような行動です。

  • 記憶力・判断力の低下による影響

人の名前や物の使い方を忘れてしまう「失認」、言葉を上手く離せなくなる「失語」、道具を上手く扱えなくなる「失行」などの症状が徐々に進み、日常生活動作に支障が生じます。

  • コミュニケーションの問題

優しく声かけを行っても理解が難しくなり、時には怒りをぶつけられるケースもあります。努力してもコミュニケーションを上手く図れないことで、介護者の心理的な負担が大きくなります。

  • 生活リズムの乱れ

認知症が進行すると、夜中に目が覚めて歩き回る「徘徊」や、生活リズムの乱れによる「昼夜逆転」が見られるケースもあります。介護者の生活に著しく影響を与え、十分な睡眠時間を確保できなくなるケースもあります。

被介護者のどのような行動・シーンにイライラを感じるのかを明らかにすることで、効果的な打ち手も定まってきます

原因2. 介護者側の心理的要因

認知症介護におけるイライラは、被介護者だけではなく、介護者側の心理的要因が原因となっている場合もあります

  • 現実を受け入れるのが難しい

被介護者の以前の元気な姿と認知症介護が必要となった姿のギャップに戸惑いを感じ、現実を受け入れられない介護者や強い心の痛みを感じてしまう介護者は多くいます。

  • 完璧主義や責任感から自分を責める

認知症における介護を完璧にしようとしたり、過度に責任を感じたりして、自分を追い詰めてしまう介護者も多くいます。介護が上手くできなかったり、理想の介護を実践できなかったりした場合に、自責の念から心理的重圧を感じてしまいます。

  • 症状の進行に無力感や深い悲しみを感じる

認知症は進行性の病気であり、現在の医学では症状を遅らせる方法はあるものの完治が難しいのが現実です。改善の見込みもなく、家族の状態が徐々に悪化していく姿を見守るなかで、深い悲しみ・無力感・やるせなさを感じるケースは多くあります。

介護者側の心理は人それぞれです。どのような要因がイライラに繋がっているのかを理解して、適切な心理面のケアを行うことが重要となります。

そのためイライラの原因を突き止める第一歩として、「どのシーンでイライラしやすいのか」「なぜイライラしているのか」などをメモに取っておくこともおすすめです。原因が判明し、適切な対処や気持ちの切り替えがしやすくなります。

少しでも認知症介護でのイライラに対する原因が判明したら、次は実際にイライラした際にどのような対処をすれば良いのかを見ていきましょう。

認知症介護のイライラを軽減する方法一覧

認知症介護のイライラを軽減するには、介護に対する心構えを変えることや、イライラを感じた際に上手く気持ちを切り替えることも重要となります。下記に認知症介護のイライラを軽減する具体的な方法を解説していますので、参考にして下さい。

イライラしていることを認め、理解する

まずは「介護中にイライラを感じてしまうのは、あなたが真剣に向き合っている証拠であり、自然な感情である」ということを理解することが重要です。

介護中にイライラしてしまうのは決してあなただけではありません。思うように介護が進まずイライラしてしまうのは介護に向き合うみんなが抱える自然な感情です。

この感情を否定せず、理解し受け入れることで、必要以上に罪悪感を感じずに済み、心理的負担を軽減できます。

そして被介護者の過去の姿と比較せず、現在の行動は病気が原因であり、決して故意ではないことを理解すると、イライラを抑えて冷静な対応を行いやすくなります。

また完璧主義は自分を追い詰める原因となるため、無理をせず心身の健康を優先することも重要です。

あなたはきっと、充分に介護者の方と向き合っているはず。心に余裕を持ち、自分に優しくすることで、穏やかな介護を長く続けることが可能となります。

同じ認知症介護でも、心構えひとつで大きく介護者の状態は変わってくるため、基本として覚えておきましょう。

物理的に距離を置き、深呼吸する

心構えをいくら変えたところで、介護中、突発的にイライラしてしまうことを完全に避けることはできませんよね。

そこでイライラしていることに気付いたら、速やかに気持ちを切り替えるための行動を取ることが重要です。

対策として、まずは無理をせず一時的に距離を置くようにしましょう。「距離を置く」の言葉通り、その場を離れるのがおすすめです。

短時間でも物理的な距離を取ることで、イライラの増長を防ぎ、気持ちがリセットしやすくなります。可能であれば別の部屋へ移動すると、視界から一時的に離れることができるため効果的です。

またその際にはゆっくりと深呼吸を繰り返し行うのがおすすめです。

4秒間息を吸い、8秒間息を吐くといった、吐くことに集中した深呼吸を繰り返し、感情を落ち着けましょう。

認知症介護においてはイライラに直面する機会も多いため、瞬間的に気持ちを切り替えるテクニックを覚えておくことは非常に重要です。

被介護者への接し方を工夫する

続いて注目するのは介護者への接し方です。

あなた自身が接し方を工夫することによって、結果的に認知症の被介護者の態度を変容させることができます。

例えば人間誰しも、イライラした状態の人から話しかけられると、感情が伝染し、あなた自身も良い気はしませんよね。

同様に、あなたがイライラした状態で話しかけることによって、被介護者へもイライラが伝わり、結果的に態度を硬化させてしまうこともあります。今度はあなたが「なんでそんな態度を取るの!」とイライラしてしまう…と負のループが続いてしまうこともあるでしょう。

先述した通り、まずは物理的に距離を離れて深呼吸。その上で声かけ・話し方・接し方それぞれに工夫を行うことが大切です。下記に、それぞれの具体的なポイントを解説します。

  • 声かけの工夫

穏やかな表情と声のトーンを心掛け、安心感を与えるような声かけを行います。相手と目を合わせることで、自分に向けられた言葉であることを認識してもらいやすくなります。また言葉が通じにくい場合も表情や態度から感情を読み取り、気持ちを共有することも重要です。

  • 話し方の工夫

聴力や理解度の低下を十分に考慮し、大きな声でゆっくりと明瞭に話すことが重要です。一度に長いフレーズを話したり、複雑な表現を行ったりすることは控え、簡潔で分かりやすい言葉を選ぶのがポイントです。「はい」「いいえ」のみで答えられる質問形式を活用するのもおすすめです。

  • 接し方の工夫

認知症の方は全てにおいてペースがゆっくりになります。そのため、焦らせたり急かしたりすることは控え、相手のペースに合わせて接することが重要です。細かすぎる指摘や物忘れに対する指摘は避け、感情に寄り添い受け入れる態度を意識して接しましょう。

  • 本人の意志を尊重する

認知症の方はできないことが増えてきますが、可能な限り本人がやりたいことはやらせてあげることが重要です。例えば、「洗濯や料理を自分でやろうとしているのであれば、安全面に配慮して行動を見守る」等です。介護に支障が生じない範囲で本人の意志を尊重することで、生活能力や自立心の維持を図ることができます。

許容範囲を設定する

長丁場である認知症介護を続けていくうえでは、介護時に自身の許容範囲を設定しておくことが非常に重要です。

あらかじめ「ここまで」というラインを決めておくと、必要以上に無理することを防ぎ、心身のバランスを保ちつつ介護を継続できます。

例えば「徘徊や昼夜逆転により睡眠がとれなくなったら、デイサービスを頼る」「日常生活に支障がでないように家族で分担して介護を行う」「自身で対処不能な場合は専門医を頼る」等です。

何度も繰り返す通り、完璧主義はあなた自身を追い詰める原因となります。

「ここまでは自分でやって、あとは外部の力を頼ろう」という線引きを行い、過度なストレス・負担を回避することで、結果的に良い介護を長く続けることが可能となります。※どこの第三者に頼るべきかについては、本記事の後半で解説しています

家族全体の協力の元、介護の負担を軽減する

認知症介護は負担が大きく、一人で継続的に介護を行っていると、心身のストレスが高まり、介護を行うこと自体が物理的に難しくなるケースがあります。

そのため「許容範囲を設定する」に関連して、可能な限り家族で協力し合い、介護負担を分散することも重要です。

例えば「兄弟姉妹で曜日を分けて親の介護を担当する」「兄弟姉妹で介護費用を分担する」といった方法が挙げられます。各家庭の事情に応じて、介護の頻度や費用負担額を調整することがポイントです。

家族が協力し合うには、現状の課題・状況・進捗・役割について話し合い、情報を共有することが成功のコツ。共有カレンダー・コミュニケーションツール・タスク管理アプリ等を活用すれば、全員が情報を共有しやすくなるためおすすめです。

リラックスする時間を意図的に確保する

突発的な瞬間だけでなく、介護の合間にあなた自身がリラックスできる時間を意図的に確保することも大切です。

例えば「穏やかな音楽を聞いて心を落ち着かせる」「アロマオイルの香りでリラックス効果を得る」「入浴剤やバスアロマを私用して入浴中にリフレッシュする」といった方法は、簡単かつ手軽に実践できるためおすすめ。また毎日数分間静かな場所で瞑想を行うことも、精神を落ち着かせ心の平穏を保つのに効果的な方法です。

ある程度時間が確保できる場合には、散歩・読書・運動などの趣味の時間を持つことも有効です。一時的に介護から心と体を切り離すことができるため、心身をリセットして自分を取り戻す機会となります。

手軽に実践できる方法から、無理なく日々の介護生活に取り入れてみましょう。

認知症介護では外部への相談が有効

上述した通り、認知症介護のイライラを軽減するには、自力で全て対処するのではなく、状況に応じて外部リソースを活用し、介護負担や心理的負担を軽減することも重要です。

緊急時に効果的な支援を受けるためにも、平常時から多職種・多機関との連携を築いておくのがポイントです。下記に詳しく解説していますので、参考にして下さい。

医療機関

認知症の方の行動が著しく落ち着かない場合は、医療機関への相談が効果的であるケースもあります。専門医やかかりつけ医に相談することで、必要に応じて症状を和らげる薬を処方してもらうことが可能です。

例えば昼夜逆転や夜間徘徊が目立つ場合は、睡眠薬による生活リズムの調整により改善が期待できる場合があります。極端に怒りっぽくなった場合は、興奮や不安を和らげる薬を処方することで、心を穏やかに保てる場合があります。

被介護者の行動が改善すれば、介護者のイライラやストレスも大幅に軽減することができるでしょう。また介護者自身がストレスを感じている場合においても、専門家に相談したりカウンセリングを受けたりすると、改善が期待できます。

ケアマネジャーや地域包括支援センター

ケアマネジャーは介護保険サービスの相談役として、家族の要望や状況を詳しく聞き取り、最適なケアプランを作成する職種です。認知症介護の相談も可能で、必要に応じてデイサービスやショートステイ等、最適な介護サービスの提案を行ってもらえます。

地域包括支援センターは各地域の介護に関する総合相談窓口としての役割を担う施設です。全国に約7,900ヶ所設置されており、認知症ケアラー同士が交流できる認知症カフェなど、身近な支援サービスの情報を得ることができます。

上記を利用することで、専門家の具体的なアドバイスを受けたり同じ立場の介護者と悩みや解決策を共有したりすることが可能です。一人で抱えずに認知症ならびに認知症介護に対する理解を深めることができるため、積極的に活用していくことをおすすめします。

施設サービス

認知症介護の負担が大きくてイライラしている場合は、介護者の心身の負担を和らげるためにも、施設サービスの利用を検討してみるのがおすすめです。

ショートステイは、介護者の休息が必要な際や、一時的な不在の際に利用できる短期入所サービスです。介護を必要とする方に24時間体制で食事・入浴・排泄といったケアを提供しており、安心して預けることができます。冠婚葬祭への参加・旅行・通院などの私用や趣味の時間を確保したい場合に最適なサービスとなっています。

最短1日から最長30日まで利用できるため、介護者が自分の時間を持つことで心身のリフレッシュを図る「レスパイト」を行う際におすすめ。介護の疲れを癒し、再び介護を行うための心身の充足を得ることが可能です。

認知症在宅介護の悩みは認知症専門医への相談がおすすめ!

認知症介護におけるイライラやストレスは、介護者にとって避けては通れない課題です。しかし、それらを正しく理解し、適切に対処することで、負担を軽減しながらより良い介護を実現することができます。イライラを抱え込まず、時には家族や専門家に助けを求めながら、自分自身を大切にすることも忘れないようにしましょう。

当記事でご紹介した方法や心構えを実践することで、介護者自身の心身の健康を守り、温かい介護を続けることが可能になります。まずは小さな一歩を踏み出し、できることから始めてみましょう。

認知症介護に伴う課題の解決は、認知症専門医への相談も有力な手段です。丹沢病院では、認知症介護の相談・治療・入院まで包括的な医療サービスを提供しています。介護の課題を一人で抱え込んでいる方は、お気軽にご相談下さい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次