認知症の方の中には、トイレばかりに行くという行動が見られることもあります。
介護者にとっては、何度もトイレに連れて行かなければならず、その対応や接し方について負担や悩みを抱えられている方も少なくありません。
しかし一方で、頻尿を放っておくことによって、認知症の方自身はもちろん、介護者の方の睡眠不足や精神的ストレスなどが発生・増加することもあります。
そこで本記事では、認知症でトイレばかり行く原因と有効な対応策について解説します。具体的な接し方についても触れているので、是非参考にしてください。
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認知症でトイレばかり行くのはなぜ?主な原因は3つ
認知症でトイレばかり行く原因は、主に以下の3つです。
- 加齢
- 見当識障害
- 治療薬の作用
まずはどの原因に当てはまるのか考えてみましょう。
1. 加齢
第一に考えられる原因は、加齢による身体機能の低下や疾患です。
高齢になるにつれて、排泄機能が低下し、尿が溜まっていなくてもトイレに行きたくなることもあります。特に、トイレばかりに行くケースの場合、過活動膀胱や前立腺肥大などが疑われるケースが多いです。
このように、トイレばかりに行く理由は認知症が原因とは限りません。介護者が「またトイレ…?」とうんざりしてしまう気持ちも分かりますが、被介護者の状況を把握(医療機関での診断を受け)し、適切な治療を実施することによって改善されることもあります。
2. 見当識障害・記憶障害
続いては認知症による見当識障害や記憶障害が原因でトイレばかりに行くケースです。
見当識障害 | 人物や時間、場所を認識する能力が低下している状態のこと |
記憶障害 | 短時間の中で起きた新しい出来事を記憶する機能が低下している状態のこと |
見当識障害によって時間と場所の感覚が鈍くなり、かつ記憶障害によって前に起きた出来事を忘れてしまっている状態のため、10分程度毎にトイレを訴える、もしくは自宅内のトイレの場所が分からなくなってしまう場合、この認知症による見当識障害や記憶障害が疑われます。
3. 治療薬の作用
認知症の治療を受けている場合、治療薬の作用で頻尿になるケースがあります。
認知症の治療に用いられる薬には、尿意促進作用のある薬をはじめ、排尿機能に支障をきたす可能性があるものや、利尿剤などが含まれているものもあります。
認知症の治療で尿意に影響を及ぼす薬を服用している場合は、処方薬を変更できないか医師に相談してみましょう。
認知症でトイレばかり行くリスク
被介護者の方がトイレばかり行くことをそのままにしておくことによって、下記のようなリスクが発生することもあります。
- 睡眠不足
- 精神的ストレスの増加
- 転倒リスク
- 介護者の負担増加
本記事の後半では対応策について解説しますが、事前にそのリスクを把握しておきましょう。
睡眠不足
夜中に何度もトイレに行くことによって、睡眠不足に陥り、昼間に眠気を感じやすくなります。慢性的な睡眠不足に陥ることで、1日中疲れた状態が続き、日常生活に影響を及ぼします。
また深い睡眠を取れないことで健康を損ない、高血圧や糖尿病となるリスクも高まるため注意が必要です。
精神的ストレスの増加
見当識障害や記憶障害が原因で頻尿が生じている場合、認知症患者は自分の状況を理解できず、不安や焦りなどの精神的負担を感じることがあります。
ただでさえ情緒不安定なうえに、家族や介助者から責められたり怒られたりすると、ショックを受けてしまい、さらに大きなストレスがかかってしまうこともあります。
長期にわたって大きなストレスがかかると、症状がさらに進行することがあるため、介護者自身もその背景を理解しながら接していく必要があります。
転倒リスク
認知症の方の中には実行機能障害を抱え、物事を行う際に、どの手順で何をすれば良いか分からなくなっている状態の方もいます。
また夜間にトイレを頻繁に訴える場合、足元が暗く見えないことから、焦ってトイレに行こうとして転倒するリスクも高まります。
介護者の負担増加
一日に何度もトイレに連れて行くことで、それに比例して介助者の負担も増加します。とりわけ夜間頻尿が見られる認知症患者の場合、介助者(あなた)自身も何度も起きなければならず、睡眠不足に陥る可能性があります。
そのため、被介護者のストレスだけでなく、介助者(あなた)に負担がかからないように対策することも大切です。
認知症でトイレばかり行くときの必要な対応は?
上記で解説した通り、「トイレばかり行く」という行動は認知症が原因とは限りません。
また、認知症の方の中には言語障害を抱え、「本当はトイレに行きたいものの、その内容をうまく伝えることができない」という方や、「トイレばかりに行っているのは分かっているが、どうしても我慢ができない」のように、心の中で葛藤を抱えていることもあります。
そのため、まずは専門の医療機関(泌尿器科を始め、医療内科や精神科などの認知症の専門病棟)の診断を受け、本人の適切な背景・状況を把握し、治療や介護を実施する必要があります。
その上で、下記の内容の接し方や対応を試しましょう。
認知症でトイレばかり行くときの適切な声掛けは?
認知症を抱える方にとって、介護者のネガティブな反応は記憶に残りやすいとも言われています。
そのため、認知症患者への声掛けは、簡潔にわかりやすく、ゆっくりと話すことが大切です。
本人は身体機能や認知機能の衰えにより、トイレで失敗することが多々あります。その際、責めたり怒ったりすると精神的なストレスがかかり、症状が悪化する可能性もあるため、感情的になることは避け、落ち着いて話しかけることが重要です。
認知症でトイレばかり行くときの対策
原因とリスク、声掛けの内容が把握できたところで、トイレばかり行くときの以下の5つの対策を紹介します。
- 排尿日誌をつける
- 紙おむつを使う
- ポータブルトイレを使う
- 利尿作用のある飲料を避ける
- 膀胱トレーニングをする
※本記事で解説している通り、症状や原因は被介護者によって異なります。また下記の対策を実施する上では、被介護者自身の適正な診断内容が重要になります。繰り返しになりますが、まずは専門の医療機関による診断を受けた上で、対策を試みましょう。
利尿作用のある飲料を避ける
利尿作用のある飲料を飲みすぎると頻尿を引き起こすため、日頃から摂取する量や時間帯などを意識することが大切です。利尿作用がある飲料としては、以下のものがあります。
- コーヒー
- アルコール
- 緑茶
就寝前に上記の飲料を摂取するのは控えましょう。
ただし、過度に水分を控えると脱水状態に陥るため、常温の水やお湯などをこまめに摂取することをおすすめします。
ポータブルトイレを使う
ポータブルトイレとは、持ち運んで使える簡易的なトイレのことです。ポータブルトイレを寝室に設置しておけば、わざわざトイレまで歩いて行く必要がなくなり、夜間の転倒リスクを防げます。
本人が慣れるまでには介助が必要ですが、トイレに毎回行くよりはお互い負担が少なくなるでしょう。足腰が弱くて歩行が難しいという場合は、有効な対策だと言えます。
紙おむつを使う
トイレまで我慢できずに漏らすことがある場合は、紙おむつを使用しましょう。
紙おむつを着用すれば、万が一漏らしても下着やベッドを汚すことがありません。トイレへ行く回数も減らせるため、本人や介助者の負担軽減にも役立ちます。もしも使用に抵抗がある場合は、夜間だけ使用してもよいでしょう。
紙おむつには、パンツ型やテープ型などさまざまな種類があり、尿漏れ防止機能がついたものも販売されています。体の大きさやフィット感、使用時間や吸収量などを考慮した上で、本人にとって使用しやすいオムツを選びましょう。
排尿日誌をつける
頻尿を治す際に最も大切なことは、認知症患者本人が「トイレばかり行く」という事実を把握することです。
そこで、本人に自覚してもらう上で役立つのが排尿日誌です。排尿日誌とは、日々の排尿状況を記録し、排尿パターンを明らかにするものです。排尿日誌には主に以下の内容を記載します。
- 排尿時刻
- 尿量
- 飲水量
- 水分を摂った時間
- 尿失禁の有無
トイレへ行くたびに計量カップなどを使って尿量を計測します。その際、尿意や尿漏れの有無、排尿時に気づいた違和感なども記録しておきましょう。
排尿日誌を3日ほど記録すると排尿状況がわかり、飲水量をコントロールするなど対策を立てやすくなります。
また排尿日誌をつけることでトイレに行った時間を本人が客観的に確認できるため、周りが口頭で伝えるよりも事実を受け入れてもらいやすくなります。
膀胱トレーニングをする
膀胱トレーニングとは、尿意を感じてからトイレに行くのを我慢する方法です。
最初は5分程度我慢するところから始め、慣れてきたら10分、15分と徐々に時間を延ばしていきます。 膀胱トレーニングに慣れてくると、次第に尿意をコントロールできるようになり、少量の排尿を繰り返す悪循環から抜け出せるようになります。
最初から長時間我慢する必要はないので、無理のない範囲から始めましょう。
認知症でトイレばかり行くときは個々に合った対策をしよう
認知症でトイレばかり行く原因は人それぞれです。
まずは専門の医療機関によって、頻尿の原因を調べて、個々に合った対策を考えましょう。
トイレまでの歩行が困難な場合は、紙おむつやポータブルトイレを利用することで負担を軽減できます。また排尿日誌をつけることで本人が頻尿を自覚し、生活習慣を改善しながら頻尿を解消することが可能です。
さまざまな対策をしているにも関わらず状況が改善しない場合は、外部に協力を依頼するのも一つの手段です。
有効な対策は複数あるので、本人の反応を見ながら適切な対応策を考えましょう。