前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症する認知症です。アルツハイマー型認知症と比べると症例が少なく、もの忘れなどの記憶障害が目立ちにくいことから、別の病気と診断されることも珍しくありません。
しかし前頭側頭型認知症の場合、社会性の欠如といった特徴的な症状がみられます。本記事では、前頭側頭型認知症の症状や経過、検査・治療方法などについて解説します。
前頭側頭型認知症とは?
前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう)は、人格・社会性・理性などをつかさどる「前頭葉」、そして記憶・知識・感情などをつかさどる「側頭葉」と呼ばれる脳の部位が萎縮を起こし、正常に脳の機能が働かなくなってしまう症状を指します。
指定難病にも認定されている疾患で、ほかの認知症の代表的な症状である記憶障害・もの忘れはあまり目立ちにくいのが特徴です。
一方で、前頭葉・側頭葉の機能が低下することにより、社会性が欠如して万引き・信号無視などの行為を起こしやすい傾向にあります。同じ道を歩き続けたり、同じ動作を繰り返すなど、常同行動がみられるのも前頭側頭型認知症の特徴です。
前頭側頭型認知症を発症するのは主に50代〜60代と、比較的若い年齢で発症する傾向がみられます。
前頭側頭型認知症の原因
前頭側頭型認知症の原因は、今のところ明らかにされていません。
脳の中の「タウたんぱく」または「TDP-43」と呼ばれるたんぱく質が蓄積することで、前頭葉や側頭葉の萎縮を引き起こすと考えられていますが、そのように変化するメカニズムは判明していません。
欧米では遺伝性による発症が約半数を占めますが、日本では遺伝が原因の発症はみられません。
アルツハイマー型認知症との違い
認知症のうち最も症例の多いアルツハイマー型認知症と比較すると、前頭側頭型認知症は記憶障害・もの忘れなどの症状が少ない一方で、人格や行動、言語機能に関する症状が多くみられる傾向にあります。これはアルツハイマー型認知症が海馬と呼ばれる部位から脳の萎縮が始まるのに対し、前頭側頭型認知症は前頭葉・側頭葉が萎縮するという違いがあるからです。
そのため前頭側頭型認知症を発症した方は、社会生活を送ることが困難になり、注意力や集中力の低下も顕著になります。
一方で、時間や場所に対しての認識は失われることがなく、アルツハイマー型認知症とは異なり自力である程度の日常生活を過ごすことは可能です。
前頭側頭型認知症の主な症状
前頭側頭型認知症の主な症状として、お店の商品を勝手に持って帰ってしまう万引き行為や、信号無視などのルール違反がみられることが多いです。
社会性が欠如してしまうことで、配慮に欠けた行動や軽犯罪を犯すこともあり、周囲とのトラブルが発生しやすくなります。本人の行動や性格の変化がみられても、加齢によって性格が変わっただけと判断され、診断が遅れることも少なくありません。
こうした症状を引き起こすのは、脳の前頭葉が萎縮し、自分の行動や感情をコントロールすることが困難になることが理由です。側頭葉の萎縮により、言語障害や記憶障害を引き起こすこともあります。
前頭側頭型認知症の経過・進行
前頭側頭型認知症は、発症初期には人格の変化や行動異常が目立ちますが、徐々に目立たなくなる傾向にあります。
初期症状・段階では、周囲に配慮せずに欲求に素直に行動することが多く、反社会的な行動や社会性の欠如がみられます。制止しようとしても興奮してしまい、暴力を振るったりすることも珍しくありません。
しかし症状が進行するにつれて無気力・無関心になり、自分から何か行動しようとする意欲が低下していきます。人格の変化・行動異常も弱まり、前頭側頭型認知症の症状も目立ちにくくなります。同じ行為を繰り返す常同行動はみられるものの、小さな動作を繰り返す程度の行動だけが残ります。
前頭側頭型認知症の検査・診断方法
前頭側頭型認知症の疑いがある場合には、まず「もの忘れ外来」を設置する精神科や脳神経内科を受診しましょう。前頭側頭型認知症を含めた認知症に対応した病院にて、専門医の診察を受けることが早期発見に役立ちます。
ここでは前頭側頭型認知症の検査で用いられる以下の3つの流れについてご紹介します。
- 問診
- CT検査・MRI検査
- 脳血流シンチグラフィー・PET
それぞれどのように検査を行い、前頭側頭型認知症と診断されるのかを押さえておきましょう。
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問診
前頭側頭型認知症が疑われる場合、まずは医師による問診を通じて、前頭側頭型認知症の特徴的な症状が現れているかを確認します。社会性の欠如がみられることや、何度も同じことを繰り返すこと、無気力・無関心であることなどが主な質問項目になります。
なお、受診の際には家族も付き添い、人格の変化や行動異常がみられることをはっきりと伝えることが大切です。家族から見た時の本人の症状や、症状が現れるようになった時期などをメモで用意しておくと、スムーズに受け答えができるでしょう。
CT検査・MRI検査
問診を通じて前頭側頭型認知症の疑いがあると判断されると、CT検査・MRI検査によって脳の画像を撮影し、前頭葉・側頭葉の萎縮を調べます。主に前頭葉および側頭葉の前方で萎縮がみられる傾向にあり、海馬の萎縮がみられるアルツハイマー型認知症とは大きく異なります。
しかしCT検査・MRI検査では、前頭側頭型認知症による脳の萎縮がかなり進んでからではないと、正確に診断できないケースもあります。
脳血流シンチグラフィー・PET検査
比較的症状が進行しておらず、CT検査・MRI検査による前頭側頭型認知症の診断が難しい場合には、脳の血流を調べる「脳血流シンチグラフィー」、または身体の代謝を調べる「PET(Positron Emission Tomography)」と呼ばれる検査を行います。これらの検査を通じて前頭葉・側頭葉における血流・代謝の低下が認められた場合に、前頭側頭型認知症と診断されることがあります。
検査を受ける際には、タバコ・アルコール・カフェインの摂取が制限されることがあるので、事前説明をしっかりと把握しておきましょう。
前頭側頭型認知症の治療・ケア方法
前頭側頭型認知症は、ほかの認知症と同様に根本的な治療法は確立されていません。
症状の進行を抑える薬なども開発されていないため、主に生活環境の整備や家族のケアによって症状を緩和させることが中心になります。前頭側頭型認知症の症状が強い場合には、抗精神病薬が用いられたり、一時入院が検討されたりすることもあります。
その他にも家族ができるケア方法として、以下の3つが挙げられます。
- 本人の常同行動に合わせてスケジュールを作成する
- 食べ物は本人の見えない場所に保管する
- 家族だけで抱え込まずに専門家と連携する
これらの適切なケアを実践しながら、本人の穏やかな生活を支援しましょう。
本人の常同行動に合わせてスケジュールを作成する
本記事で解説した通り、前頭側頭型認知症の特徴的な症状の一つに、常同行動が挙げられます。
常同行動は、決まった時間に同じ場所を訪れたり、毎日同じ服を着たがるなど、同じ行動の繰り返しがみられることを指します。常同行動の対象は一人ひとり異なるため、家族が繰り返す常同行動を把握し、それに合わせてスケジュールを作成すると良いでしょう。
本人にとっての常同行動が邪魔されてしまうと、興奮したりパニックを起こしたりする危険性も高まります。そのため確立したスケジュールはなるべく乱さないように配慮すると良いでしょう。
スマホのアラームを設定したり、時間割を作成して目立つ場所に貼ったりすると効果的です。
食べ物は本人の見えない場所に保管する
前頭側頭型認知症の家族がいる場合、食べ物はなるべく本人の見えない場所に保管するようにしてください。
症状が進行することで、食べてはいけないものを口にしてしまったり、目一杯食べ物を口に入れようとする行動がみられます。その結果、健康を害したり窒息に至ったりする危険性があるからです。
また、甘いものばかり食べる行動や、止めどなく食べ続けてしまうことも前頭側頭型認知症の症状の一つです。そのままでは糖尿病や肥満を引き起こしてしまうため注意しましょう。
家族だけで抱え込まずに専門家と連携する
前頭側頭型認知症は、50代〜60代の働き盛りの時期に発症することが多いです。前頭側頭型認知症の症状として、社会性が欠如した行動や、周りに配慮しない自己中心的な行動がみられるため、家族だけでサポートしようとすると大きな負担がかかります。そのため認知症の専門家をはじめとして、グループホームや訪問介護などの福祉サービスも適切に活用するようにしてください。
前頭側頭型認知症はアルツハイマー型の認知症とは異なり、記憶力や日常生活における動作は長く維持される傾向にあります。
本人の常同行動に合わせた生活を送り、専門家の力を借りながらサポートすることにより、本人と家族のQOL(生活の質)を維持することが可能なので、家族で抱え込まずに専門家を頼るようにしましょう。
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まとめ
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉・側頭葉が萎縮することにより、人格の変化や行動異常が起こる難病です。ほかの認知症と比べて特徴的な症状がみられることが多く、原因や治療法は明らかにされていません。症状が進行するにつれて行動異常は弱まり、無関心・無気力な状態が続く傾向にあります。
前頭側頭型認知症の家族と介護者のQOLを維持するためには、本人の常同行動に合わせたスケジュールを作成したり、食べ物を本人が見えない場所に保管したりすることが有効です。
抗精神病薬や一時入院が検討されることもあり、専門家の力を借りながら適切にサポートすることが重要になりますので、前頭側頭型認知症が疑われた時には早めに「もの忘れ外来」を設置する病院に相談してみましょう。