認知症の進行に伴う家族の介護負担は非常に大きく、自宅介護が難しくなれば認知症施設への入居が必要となります。
しかし患者・家族が納得できる形で施設へ入居するには、適切な施設選び・ケアやサービス内容の検討・費用の捻出・トラブル対処など、多くの課題が立ちはだかります。
当記事では認知症施設への入居をスムーズに進めるための実用的な情報から、費用問題や入居トラブルの対処法までを幅広く解説します。
認知症施設の種類

認知症患者を受け入れる施設には、さまざまな種類があり、それぞれ特徴や対応範囲が異なります。下記の通り、どのような施設があるのかを把握しておきましょう。
グループホーム
グループホームは、認知症の高齢者が家庭的な環境のなか、スタッフの介助を受けながら共同生活を送る施設です。
1ユニットの定員は5~9人、1つの施設で最大3ユニットという人員基準が設けられており、利用者一人ひとりにあったきめ細かなケアと日常生活のサポートを受けることができます。
■施設の特徴
対象者 | 軽度~中程度の認知症の方、要支援2以上の方が対象 |
環境 | 個人の生活リズムを尊重しつつ、アットホームな雰囲気・環境を提供 |
サービス内容 | 食事・掃除・洗濯等の支援、生活リハビリ、認知症進行予防、看取り |
注意点として、医療ケアは整備されていない施設であるため、重度認知症の方や高度医療対応が必要な方には適していません。
入居条件を満たしており、家庭的な環境のなか、穏やかで自立した生活を送りたい方にはおすすめです。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームとは、24時間体制で介護スタッフが常駐し、要介護状態の高齢者が安心して生活できる民間運営の施設です。
食事・入浴・排泄といった基本的な日常生活支援に加え、アクティビティ・レクリエーション・健康管理等も提供されており、快適で充実した生活を送れる環境が整っています。
■施設の特徴
対象者 | 主に要介護1以上の方 |
環境 | 一人ひとりに個室が提供され、プライバシーを確保。施設によっては豪華な設備が備わっている |
サービス内容 | 日常生活支援、健康管理、レクリエーション、アクティビティ、医療ケア、看取り |
手厚い介護と快適な住環境が提供されている反面、公的施設よりも費用は高めに設定されている点に注意が必要です。また施設ごとにサービスの内容や質が異なるため、事前に比較検討したうえで入居を決めることが重要です。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホームは、要介護度が高い方を主な対象とし、介護サービスと生活環境を提供する介護施設です。24時間体制の介護が提供されており、重度の介護が必要な方にも対応することができます。
公的運営の施設であるため民間施設よりも費用が安く設定されており、介護保険の適用により自己負担も軽減されるため、経済的負担を抑えたい方におすすめです。
■施設の特徴
対象者 | 原則として要介護3以上が対象(特例要件が認められれば要介護1・2も対象) |
環境 | 個室・相部屋・多床室など、施設により異なる |
サービス内容 | 食事・入浴・排泄等の日常生活支援、レクリエーション、リハビリテーション・医療ケア・看取り |
介護は手厚い施設ではあるものの、医療的ケアに関しては限定的であるため、必要に応じて医療機関との併用が必要です。また入所待機者が多いため、入所を希望しても時間がかかる場合がある点にも注意が必要です。
認知症専門病院
認知症専門病院とは認知症の相談・診断・治療・入院等を提供する、認知症への対応を専門とする医療機関です。具体的には、認知症疾患医療センター・認知症治療病棟等が該当します。
医師・看護師・リハビリスタッフが連携し、包括的な介護ケア・医療ケアにより患者と家族のサポートを行います。
■施設の特徴
対象者 | 認知症の診断・治療が必要な方、在宅介護が難しい方 |
環境 | 認知症専門病棟・個室・リハビリ施設などの医療環境が充実 |
サービス内容 | 認知症の診断・治療・精神的ケア・相談対応・支援・ケアプラン作成 |
認知症専門病院は、認知症の進行度に応じた治療や合併症への対応が可能で、一般病棟では対応が難しい重度認知症患者の入院もできます。
ただし入院期間は限られる場合が多いため、退院後の受け入れ先も併せて検討しておくことが重要です。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設とは医療ケア・リハビリを通じて、在宅復帰を目的としたサポートを提供する高齢者向け介護施設です。特別養護老人ホームと病院の中間的な位置づけの施設で、医師・リハビリスタッフが常駐しており、専門性の高いサポートを受けることができます。
■施設の特徴
対象者 | 要介護1以上の方。病院での治療後、介護・リハビリを受けたい方。 |
環境 | 個室・多床室を完備。医療施設に近い充実した設備。 |
サービス内容 | 日常生活支援、医療ケア、リハビリテーション・在宅復帰支援。 |
同施設では利用者一人ひとりの状態や目標に合わせ、3~6ヶ月程度のリハビリを中心とした自立支援を行い、家庭への復帰を目指します。ショートステイや通所での利用も可能となっており、家族の負担軽減を目的とした利用も可能です。
ただし入所が原則として短期に限られるため、在宅復帰が難しい場合は長期利用が可能な他の施設への移行を検討する必要があります。
介護療養型医療施設(現:介護医療院)
介護療養型医療施設とは長期間にわたる介護と医療の両方のケアが必要な高齢者を対象とした施設です。
同施設は2023年末で廃止が決定されたため、現在は2018年に創設された介護医療員が転換先となっています。施設には医師・看護師が常駐しており、重度認知症・慢性疾患・合併症を抱えた患者に対して専門的で手厚いケアを提供します。
■施設の特徴
対象者 | 要介護1以上で、医療措置を必要とする方、比較的重度の要介護者。 |
環境 | 医療設備が充実。病院に近い機能を有する施設。 |
サービス内容 | 医療ケア(酸素吸入・点滴等)、日常生活の介護、リハビリ、終末期ケア。 |
同施設は設備や環境が整っており、医療的ケアと介護の両方が必要な方、終末期ケアを希望する方が安心して過ごすことができます。しかし利用者の介護度が高く、入院生活に近い過ごし方となるため、レクリエーション等の余暇活動はほぼ行われていません。また施設数が少なく待機期間が発生しがちである点や、費用が高額になる場合がある点には留意しておく必要があります。
認知症の程度・要介護度に応じた施設の選び方

認知症施設は、認知症症状の程度や要介護度に応じて選ぶことが重要です。下記に認知症の程度・要介護度に応じた推奨施設を解説するため、施設選びの参考にして下さい。
軽度認知症(要支援〜要介護1)
■推奨とされる施設:グループホーム
少人数制で家庭的な雰囲気が特徴の施設です。認知症の専門知識を持ったスタッフが24時間体制でサポートを行います。
日常生活を通じたリハビリ・交流機会の提供・趣味活動により、認知機能の維持向上や自立支援を図れるため、心身の機能に大きな支障のない軽度認知症の方にはおすすめです。
中等度認知症(要介護2〜3)
■推奨とされる施設:介護付き有料老人ホーム・特別養護老人ホーム(特養)
介護付き有料老人ホームは、スタッフが常駐しており、日常生活全般に渡ってきめ細かなケアを受けられる施設です。特別養護老人ホームは、公的施設であるため費用が安価で、介護保険適用のサービスが充実しているのが特徴です。
どちらも施設も認知症患者の入居に対応しており、医療的ケアにも対応しているため、中程度認知症の方、要介護2~3の認定を受けている方の入居先としておすすめです。
重度認知症(要介護4〜5)
■推奨とされる施設:特別養護老人ホーム・認知症専門病院・介護老人保健施設(老健)
特別養護老人ホームは介護体制が整っており、重度認知症への対応も可能です。また認知症専門病院は入院治療による専門的な治療や症状の管理が可能となっています。介護老人保健施設は医療ケアとリハビリを備えた施設で、在宅復帰を目指した入所に適した施設となります。
重度認知症の方や要介護4~5の方は、常時介護が必要な状態であり、専門度の高いケアや管理も必要となるため、入居施設が限られてきます。
認知症施設の費用問題を解決する方法

認知症施設への入居には多額の費用が必要となります。ここでは施設入居の費用捻出に課題を抱えている場合の対処法について解説します。
施設の費用内訳を把握
認知症施設への入居にはさまざまな費用が必要です。まずは入居を希望する施設の費用構造を確認し、どのような内訳となっているのかを把握しましょう。
費用項目 | 内容 |
初期費用 | 入所金・保証金等 |
月額費用 | 介護サービス費・居住費(家賃)・管理費・共益費・介護保険自己負担額・生活サービス費等 |
その他費用 | レクリエーション費用・個別対応費用 |
施設側から見積書を取り寄せ、総額を確認すると同時に、隠れた費用がないかを確認することが重要です。
費用を比較検討する
認知症施設の費用は初期費用・月額費用が施設により大きく異なります。そのため、複数の施設の費用を比較検討し、ニーズを満たしつつ費用を無理なく支払える施設を選ぶことが重要です。
全体的な傾向として、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設等の公的施設は比較的費用が安価に設定されていますが、有料老人ホーム・グループホーム等の民間施設は、サービスが充実している反面、費用は高額に設定されています。
費用の支払に懸念がある場合は、できるだけ公的施設を選択すると負担を抑えられるためおすすめです。また、介護保険が適用されるサービスを事前に確認し、利用するサービスを絞り込むことで、さらに費用を抑えることも可能です。
公的支援制度を活用する
認知症施設の費用負担を軽減するには、公的支援制度を積極的に活用することが重要です。主な公的支援制度には、下記が挙げられます。
介護保険 | ケアプランに基づき、施設利用にかかる費用負担を軽減。介護保険負担限度額認定を受けることで利用できる。 |
高額介護サービス費 | 介護費用が一定額を超えた場合、申請により超過分が返金される制度。 |
医療費控除 | 年間医療費が基準額を超えた際に超過分が還付される所得控除の一種。家族が医療費を支払った場合に控除を受けられる。 |
高額医療・高額介護合算制度 | 年間の医療保険と介護保険の自己負担額合計が基準額を超えた場合、超過分を払い戻せる制度。 |
各制度を組み合わせることで、認知症施設の費用負担を大幅に軽減することが可能です。地域包括支援センターへ相談すれば、支援制度や適用条件についての詳細な情報を得ることができます。
家計が苦しい場合の対処法
家計が苦しく認知症施設の費用負担が重い場合は、下記の対処法も検討してみましょう。
家族間での協力・・・話し合いを行い、費用負担を分散させる方法を検討する。
リバースモゲージの検討・・・自宅を担保に融資を受けられる仕組みのローン。自宅に住みながら必要な資金を調達できる。
リースバックを検討・・・第三者に自宅を売却し、同時に賃借する取引方法。自宅に住みつつ売却資金を確保できる。
生活保護を申請・・・収入や資産状況に応じた公的支援を受けられる制度。本人が生活保護を受けている場合、基本的に費用の自己負担はない。
これらの方法を組み合わせることで、家計が苦しい場合においても認知症施設の費用を捻出しやすくなります。
認知症施設を追い出されるケースと対処法

認知症施設は、状況によっては追い出されてしまうケースも存在します。ここでは施設から追い出されるケース、不要なトラブルを未然に防ぐ方法についてそれぞれ解説します。
施設から追い出されるケース
認知症施設では状況により施設からの退去を求められる場合があります。主なケースと理由について下記に解説します。
契約違反・・・継続的な料金未払い・重大な利用規則違反等が生じた際には、契約違反を理由に退去を求められる場合がある。特に料金の未払いは最終的に強制退去となる可能性もある。
介護度の進行・・・認知症が進行し、入所時に想定された介護度を超えた対応が必要となった際には、より専門的な施設への転居を求められる場合がある。
問題行動・・・他の入居者や職員への暴力、頻繁なトラブル行動が見受けられる場合は、他の入居者の生活環境と安全を保護するため退去が検討される場合がある。
施設側の事情・・・運営方針の変更・スタッフ不足によるサービス提供の難化・施設のリフォーム・施設の閉鎖など、施設側のやむを得ない事情で受け入れを継続できないケースもある。
トラブルを未然に防ぐ方法
認知症施設の退去を回避するには、トラブルを未然に防ぐための準備と適切な対応を行うことが重要です。具体的な方法を下記に解説します。
契約時の確認・・・契約書を細部まで読み込み、退去条件・施設のルール・サービス対応範囲等を事前に確認。曖昧な点や不明瞭な点は契約前に確認し、疑問点や不明点を解消しておく。
定期的なコミュニケーション・・・施設職員や管理者と定期的に情報交換・意見交換を行い、問題が発生する前に協議できる関係性を構築しておく。
介護度が変わった場合の準備・・・介護度の進行に備え、将来の転居候補となる施設をリストアップしておく。医療機関を受診してケアプランの調整を行い、介護保険や公的支援の活用可否についても調査しておく。
専門機関への相談・・・トラブルが予想される場合は、事前に地域包括支援センターや弁護士に相談し、解決策を検討しておく。
費用管理の徹底・・・支払いが遅れないよう資金管理を徹底。家計が厳しい場合は支援制度を活用する。十分な情報収集・事前準備・早期対応が、施設退去という最悪のトラブルを回避する鍵となります。
施設介護の悩みはまず認知症専門医へ相談
認知症施設の選び方は、患者本人の状態や家族の事情により大きく異なります。施設の特徴・ケアやサービスの内容・費用体系について細かく検討し、相談や見学も実施して慎重な選択を行うことが重要です。
施設選びやケア方法に迷った場合は、地域包括支援センターや専門医へ相談するのがおすすめです。知識・経験が豊富な専門家の観点から、適切な解決策や対処法を提案してもらえます。
丹沢病院では、認知症専門医による相談・診断・治療・入院まで幅広く対応可能です。
デイケア・居宅介護支援事業所・訪問看護も院内に備えています。施設介護が必要な認知症患者の幅広いニーズに対応できますので、お気軽にご相談下さい。