認知症患者の暴力の原因|専門医師が具体的な対応方法と相談先について解説

認知症が進行してくると感情の起伏や言動が激しくなり、暴力に発展してしまうケースもあります。そして認知症患者の暴力に対してどのように対応すれば良いか分からず、途方に暮れてしまう方も少なくありません。

そこで本記事では、認知症患者の暴力的行動の原因から、適切な対応方法・医療的アプローチ・家族のケア方法までを詳しく解説します。介護者を守りつつ、認知症患者の暴力的行動に対処していくヒントを多数紹介しているので、ぜひ参考にして下さい。

目次

認知症患者が暴力的行動に至る原因

認知症患者が暴力行動に至るのにはさまざまな原因があり、複数の原因が絡み合っている場合も多くあります。下記で詳しく解説します。

脳の変化

認知症の進行に伴う脳の機能低下は患者の行動や感情に大きく影響を与え、暴力的行動の原因となることがあります。具体的には、下記のような要因があります。

前頭葉の萎縮判断力や感情コントロールを担う前頭葉の萎縮により、衝動的な行動や刺激への過剰反応が増え、暴力的行為に至るケースがある。
海馬の損傷記憶を司る海馬が損傷すると短期記憶を保てなくなり、不安や混乱を感じやすくなる。症状が悪化すると暴力的行動に繋がるケースもある。
偏桃体の過剰反応感情を司る偏桃体が過剰に反応することで、感情の抑制がきかなくなり不安や怒りが暴発してしまうケースがある。
認知機能の低下認知機能が低下すると、周囲の状況の把握や言語の理解が上手くできなくなり、強い苛立ちや恐怖感から攻撃的になることがある。
神経伝達物質の分泌異常気分や感情の安定に関わるセロトニン・ドーパミンといった脳内の神経伝達物質に異常が生じると、感情の制御が難しくなり攻撃的になるケースもみられる。

このように認知症患者の暴力的行動は、単一の原因ではなく複数の原因が重なり合っているケースが多くあります。そのため脳の変化を理解して、患者の状態に合わせた対処を行うことが重要となります。

環境要因

認知症患者は刺激に敏感な状態となっており、生活環境や周囲の状況といった環境要因に大きな影響を受け、暴力的行動に至るケースもあります。例えば、下記のような要因が挙げられます。

  • 騒音・テレビの音・大きな話し声などの過剰な聴覚的刺激
  • 人の出入りが多い・大勢で取り囲むなど、周囲の人からの圧力
  • ケアの方法が雑であったり不適切であったりすることによる、不快感や苛立ち
  • 引っ越し・移動・模様替えなどの大きな環境の変化

一般の方は気にならないような些細な要因も、認知症患者にとっては大きなストレスとなり、不安・不快感・苛立ちといったネガティブな感情を抱くこともあります。

環境要因は改善が比較的容易であるため、認知症患者が穏やかに過ごせるように環境の見直しを行うことが有効な対策となります。

身体的・心理的要因

認知症患者が暴力的行動に至る背景には、身体的・心理的要因が原因となっている場合もあります。

例えば、下記のような原因が考えられます。

【身体的要因】

  • 体調不良・身体の痛みに大きなストレスを感じている
  • 睡眠不足や生活リズムの乱れから不調をきたし、不安・興奮・苛立ちにつながっている
  • 服薬している薬が合わず、副作用から問題行動につながっている

認知症が進むと身体の不調をうまく言語化できず周囲に伝えることができないため、解消されない不調に対するネガティブな感情が暴発してしまうケースがあります。

【心理的要因】

  • 一人で過ごす時間が長くなり、孤独感・不安・恐怖といった感情を抱えている
  • 会話に入れない・自分に分からない会話が行われていることに対し疎外感や苛立ちを覚える
  • 自尊心を傷つけられたことに激しい憤りを感じている

認知症患者はコミュニケーション能力の低下や意欲低下がみられ、孤立状態に陥ったり会話が不足した状態に陥りがちです。心理的に悪影響を及ぼし、暴力的行動に至ってしまうケースもあります。

このような事情を理解して、暴力的行動に至らないように事前に適切な対策や対応を行うことが大切です。

認知症患者の暴力的行動が危険な場合は警察を呼ぶ

認知症患者からの暴力がエスカレートし、あなた(介護者)自身の命に危害が及ぶような場合は、“緊急時の身を守る選択肢”として警察を呼びましょう。

ただし警察を呼ぶのはあくまでも緊急時の対応手段です。継続的に呼ぶような事態が起きることがないように、下記でご紹介する、専門機関へ必ず相談しておくことが大切です。

医療的視点からの暴力的行動に対する対応方法

大前提として、認知症患者の暴力的行動は被介護者に直接被害が及ぶこともあり、専門機関への相談が先決です。介護者であるあなた自身がダメージを負ってしまっては介護そのものを続けられない状態にもなりかねません

医療機関や専門機関に相談する

認知症患者の暴力的行動への対応に困った場合や対応不能となった場合、認知症の専門医へ相談することが重要です。かかりつけ医がいる場合は、現在の状況や課題を細かく説明して、具体的なアドバイスを受けましょう。

初めて相談を行う場合は、認知症の専門病院(もの忘れ外来)を探して受診することをおすすめします。本人不在でも受診可能な病院もあるため、本人が受診を拒否する場合や暴力から通院が難しい場合においても、医師に相談することは可能です。

どの医療機関へ相談すればいいか分からない場合は、地域包括センターへ相談すれば、認知症患者の状態や症状に応じた適切な医療機関を相談してもらえます。

認知症患者の暴力的行動は、専門的な治療が必要となる場合もあるため、行き詰まる前に専門医のサポートを受けて最善の対策方法を見つけましょう。

薬物治療を検討する

上述した医療機関への相談に関連して、認知症の暴力的行動に対しては、患者の症状や状態に応じて薬物療法を取り入れることで、大幅な改善が見られる場合があります

暴力の症状に伴う認知症において用いられる代表的な薬としては下記が挙げられます。

コリンエステラーゼ阻害薬アセチルコリンという神経伝達物質の分解を抑制し、脳内濃度を高めることで、認知機能の改善が期待できる薬
NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)神経細胞の興奮を抑えて精神を落ち着かせる薬。妄想や興奮などのBPSDに効果が期待できる。
漢方薬
漢方薬心身のバランスを整える薬。副作用が少なく暴力・妄想に効果が期待できる。
抗うつ剤・抗精神病薬精神科領域の薬。鬱・過度の不安・睡眠障害が暴力の原因となっている場合に有効。

薬物療法を適切に取り入れることで、認知症特有の攻撃性や興奮が緩和され、暴力的行動を抑える効果が見込めます。認知症患者本人の苦痛を緩和できるだけでなく、介護者の負担も軽減できます。

薬物療法は長期的視点で治療を行うのが重要であるため、専門医の継続的なフォローを受けながら服薬を続けていくのがポイントです。

入院治療を検討する

外来治療では改善が見込めない場合や、在宅介護が家族の生活を著しく脅かしている場合は、入院治療を検討することが重要です。通院や相談を行っている過程で、医師の判断により入院治療を推奨される場合もあります。また精神保健福祉法に基づき入院が必要と判断された場合は、本人の同意なしに医療保護入院・措置入院・緊急措置入院といった措置が取られるケースもあります。

入院治療では設備の整った病院で24時間管理された体制のもと、薬物療法・非薬物療法を組み合わせた適切な治療を受けることが可能です。

専門の医療スタッフが管理とサポートを行っているので、暴力的行動を示す患者も安全に入院生活を送ることができます。また治療や管理だけでなく、入院患者のQOLを向上させるためのアクティビティも受けることが可能です。在宅介護が難しい場合には、患者・家族両者にとって良い選択と言えるでしょう。

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認知症患者の暴力的行動への対応方法

ここまで前提として重要な認知症患者の暴力的行動への対応方法を解説してきました。最後に、暴力的行動が現れた際、介護を行う上で重要な下記の3つのポイントを紹介します。

  • 物理的な距離を保つ
  • 冷静に対応する
  • 原因を探って事前に改善する

距離を保つ

認知症患者が暴力的行動を始めた際、まずは物理的・心理的な距離を保つことが重要です。

物理的に距離を取ることで、あなた自身への直接的なダメージを防ぎ、安全を確保することができます。近くに人がいると認知症患者に圧迫感を与えてしまいますが、距離を保つことで興奮状態が悪化するリスクを低減できます。

つまり物理的・心理的距離を保つことによって感情がクールダウンされ、被介護者・介護者双方が落ち着きを取り戻し、両者の安全を確保できるようになる、ということです。

またその間に冷静に対処法を考えることが可能です。対処が難しい場合は、必要に応じて他の人に応援や助けを求めましょう

冷静に対応する

認知症患者が暴力的行動に出た際には、いたずらに刺激すると余計に興奮してしまう恐れがあるため、冷静に対応することが重要です。

暴力的行動の背景には不安・不快・混乱といった感情があるため、落ち着いた声のトーンで丁寧に分かりやすく話すことで、相手の感情を落ち着かせることができます。声かけの内容は、相手にポジティブな影響を与えるために、「感謝」「肯定」「共感」「誉める」といった要素を基準とするようにしましょう。

話し方や言葉だけでなく、表情や身振り手振りなどの非言語的な要素にも気を配ることも大切です。特定の物事や感情に強く囚われている場合は、他の物事や話題を提案して注意をそらすのも効果的のため、ぜひ実践してみましょう。

原因を探って事前に改善する

認知症患者の暴力的行動には、前段階として不安・不快・混乱といったネガティブな感情が背景にあることが多いです。そのためネガティブな感情を抱く原因を取り除くか、感情が高ぶる前に解消してあげれば、暴力的行動に至る可能性を大幅に低減することが可能です。

まずは可能な限り認知症患者が暴力的行動に至る原因を分析し、取り除く努力をしましょう。例えば音や光の刺激・環境の変化・身体の不調・意思疎通の不足・対人トラブルなどの原因が考えられます。

認知症患者の暴力的行動は、上手く対応するよりも「予防すること」が重要です。早期に原因を検知して、被介護者・介護者が穏やかに過ごせる環境を創り出しましょう。

暴力的行動に対しては十分な備えを行って介護に臨もう!

認知症患者の暴力的行動に直面した際には、決して慌てたり正面からぶつかったりせずに、冷静に原因を分析して適切な対処を行うことが大切です。また自宅介護が難しい症状でもあるため、大きな負担を感じている場合や生活が脅かされている場合は、医療機関や地域の支援を活用して、介護者自身の負担を軽減することも重要となります。

介護環境を整え、いつでも医療や支援を活用できるように備えておくことで、難易度の高い暴力的行動への対応も行いやすくなるでしょう。

丹沢病院では、認知症に関するあらゆる課題に対応しており、相談・診療・入院など専門的な支援を提供しています。認知症の暴力的行動にお悩みの方は、お気軽にご相談下さい。

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