レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるたんぱく質が脳に蓄積されることで脳の神経細胞が減少し、認知症の症状を発症します。
アルツハイマー型認知症や血管性認知症とともに認知症の代表的な症状とされており、パーキンソン症状が現れることや調子の良い時・悪い時を繰り返しながら進行することが特徴に挙げられます。
ほかの認知症と同様に、レビー小体型認知症は根本的に治療する方法は発見されていませんが、早期発見・早期治療によって進行を遅らせることが可能です。そのためレビー小体型認知症の症状がみられる場合には、早めに精神科・脳神経内科などの病院を受診することが大切です。
本記事では、レビー小体型認知症の原因・症状や検査・診断方法、治療方法などについてご紹介します。
レビー小体型認知症とは?
レビー小体型認知症は、大脳皮質や扁桃体などの脳の部位に「レビー小体」という異常なたんぱく質が蓄積することで引き起こされる認知症です。レビー小体はパーキンソン病を引き起こすたんぱく質であることも判明しており、レビー小体型認知症とパーキンソン病を合わせて「レビー小体病」と呼ばれます。
現在のところレビー小体が脳に蓄積するメカニズムは判明していませんが、65歳以上の男性に多く発症する傾向があります。また、頭部への外傷や慢性的なストレス、うつ病などもレビー小体型認知症の発症に関連があると考えられています。
レビー小体型認知症の症状
レビー小体型認知症の主な症状に挙げられるのは、以下の5つです。
- 認知機能障害
- パーキンソン症状
- 幻視・幻聴
- レム睡眠行動異常症(RBD)
- 自律神経症状
それぞれの症状を詳しくご紹介します。
認知機能障害
レビー小体型認知症では、判断力・注意力の低下して会話がままならない状態と、健常な状態が交互に繰り返しながら変動する認知機能障害がみられます。こうした変動は、数分間〜数時間で起こることもあれば、数週間〜数ヶ月調子の悪い状態が続くこともあります。
なお、アルツハイマー型認知症と比べると、レビー小体型認知症ではもの忘れをはじめとする記憶障害はあまりみられないのが特徴です。
パーキンソン症状
レビー小体型認知症では、パーキンソン病のような運動症状であるパーキンソン症状が現れます。
手足の筋肉がこわばり動かしにくくなったり、手足の震えが発生したり、動作が緩慢になったりするのが特徴です。転倒の危険性も高まることから、レビー小体型認知症の患者様は寝たきりになるリスクも高まります。
また、パーキンソン症状が進行すると嚥下障害を引き起こし、誤嚥性肺炎の原因になります。
幻視・幻聴
レビー小体型認知症の症状には、幻視・幻聴も挙げられます。レビー小体型認知症の発症初期からみられる症状で、実際には存在しない人物・虫・動物が見えるのが特徴です。
「知らない人が立っている」「壁に虫がいる」「布団が人の姿に見える」など、本人にとってはまるで現実のようにはっきりと認知できるため、周囲の家族に強く主張してくるケースも多いです。
レム睡眠行動異常症(RBD)
レビー小体型認知症では、睡眠中に怖い夢を見てしまい、大声を出したり手足を激しく動かしたりと、異常な行動をとるレム睡眠行動異常症もみられます。
健常な状態では、夢を見るレム睡眠時には筋肉が弛緩して休まるのですが、レビー小体型認知症を発症すると筋肉が弛緩せず、夢の中の行動がそのまま異常行動として現れてしまうのです。
その結果、手足をぶつけて怪我をしたり、隣で寝ている人に怪我を負わせたりしてしまうケースがあります。
自律神経症状
自律神経がうまく働かなくなることが原因で、便秘・尿失禁や嗅覚異常といった自律神経症状がみられることもレビー小体型認知症の特徴です。異常な発汗や立ち上がった時の立ちくらみ(起立性低血圧)なども主な症状に挙げられます。
また、何事にも無気力になり、これまで取り組んできた趣味への興味を失うなど、うつ病の症状がみられることもあります。こうした自律神経症状は、レビー小体型認知症の「前駆症状」とも呼ばれ、発症する何年も前からみられることも多いです。
レビー小体型認知症の進行・経過
アルツハイマー型認知症の場合、症状が進行するにつれてゆっくりと悪化し、もの忘れが徐々にひどくなる経過を辿ることが一般的です。
しかしレビー小体型認知症の場合、調子の良い時と悪い時が波のように現れながら、少しずつ症状が悪化するのが特徴です。その日の調子によっては認知症が改善されたように感じることもあれば、次の日にはボーッとしてうまく会話が取れなくなってしまうことも多いです。
症状が進行するとパーキンソン症状が強く現れ、自力での歩行が困難になり、感情の起伏が少なくなる症状がみられます。調子が良い時・悪い時を繰り返すのは変わりませんが、調子が悪い時の時間が長くなる傾向もあります。
レビー小体型認知症の末期には、常に介助を必要とする状態になり、嚥下障害によって食事が気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが上昇します。
レビー小体型認知症の検査・診断方法
レビー小体型認知症は、神経心理検査・脳画像検査などの結果をもとに、総合的に診断されます。
また、本人や家族への問診も行われるため、これまでの症状や言動についてメモを作成してから受診すると良いでしょう。
ここではレビー小体型認知症の代表的な検査・診断方法をご紹介します。
神経心理検査
神経心理検査とは、レビー小体型認知症が疑われる方本人への質問・テストを実施する検査です。
ミニメンタルステート検査(MMSE)という検査が用いられることが多く、11種類の質問に対して回答し、正答数が一定以下の場合に認知症の疑いが強いと判断されます。
また、レビー小体型認知症では幻視・錯視がみられることから、木目や壁のシミなどが人の顔に見えてしまう「パレイドリア」の有無をチェックするテスト(錯視誘発テスト)も行われます。
脳画像検査
MRI・CTを用いて、脳の萎縮がないかをチェックする脳画像検査も行われます。海馬周辺の萎縮が見られるアルツハイマー型認知症とは異なり、レビー小体型認知症では脳の萎縮は軽度なので、ほかの認知症との鑑別にも使用されます。
脳への血流を調べるSPECT検査により、レビー小体型認知症に特徴的な後頭葉への血流低下がないかを検査するほか、パーキンソン病の診断でも使われるダットスキャン検査によって脳の働きを調べることもあります。
心筋シンチグラフィ
心筋シンチグラフィは、心不全の診断のために使われる検査ですが、レビー小体型認知症の場合はレビー小体が心臓に蓄積して心臓の働きを阻害することがあるため、心臓の働きに異常がないかを調べるために実施されます。アルツハイマー型認知症の場合には心臓の異常は現れないため、ほかの認知症との鑑別にも役立ちます。
レビー小体型認知症の治療法
レビー小体型認知症は、ほかの認知症と同様に、現在のところ根本的に治療する手段は見つかっていません。
そのため対症療法として薬物治療が行われるほか、パーキンソン症状による転倒リスクを避けるための理学療法をはじめとする非薬物療法が用いられています。
薬物療法
レビー小体型認知症による認知機能の低下や幻視に対しては、アルツハイマー型認知症でも使われる治療薬や抗精神病薬が投与されることがあります。ただし薬の量によってはパーキンソン症状が悪化する危険性もあるため、必要最小限の使用にとどめることが重要になります。
パーキンソン症状に対する治療では、パーキンソン病の治療薬が使用されるほか、レム睡眠行動異常症への治療として不眠症治療薬が用いられることもあります。ほかにも便秘・起立性低血圧など、一人ひとりの症状に合わせて薬剤を調整しながら治療を行います。
非薬物療法
レビー小体型認知症に対する非薬物療法として、パーキンソン症状による転倒を防ぐための理学療法のほか、本人の幻視・幻聴を否定せずに話を聞いて安心感を与えるケアが重要になります。
特にレビー小体型認知症の場合、転倒によって寝たきりになるリスクが高いため、ストレッチや散歩といった運動療法が多く取り入れることが大切です。
普段の暮らし方においても、幻視を予防するために室内をシンプルにして一定の明るさを保ったり、日常生活でつまづいて転倒しないよう、自宅の段差を減らすリフォームを検討したりすると良いでしょう。急に声をかけて驚かせないように、周囲が配慮することも大切です。
また便秘の解消のために食物繊維を豊富に含む食事メニューを取り入れ、起立性低血圧を予防するためにこまめな水分補給を促したり、立ち上がる際にはゆっくりと身体を動かすよう指導したりするのも効果的です。
まとめ
レビー小体型認知症は、脳内に異常なたんぱく質が蓄積することで引き起こされる認知症であり、アルツハイマー型認知症と比較するともの忘れが現れにくい傾向があります。一方で、認知機能の調子が良い時・悪い時を繰り返し、パーキンソン症状がみられることが特徴となっているため、本記事でご紹介してきた症状がみられる場合には、早めに精神科や脳神経内科を受診するのが大切です。
レビー小体型認知症の治療では、一人ひとりの症状に合わせた薬物療法や非薬物療法が用いられますが、症状が悪化してしまうと治療の効果が薄れてしまいます。そのため「認知症かも?」と疑われた際には、気になった症状や言動をまとめたメモを持参して病院を受診し、早期発見・早期治療に努めるようにしましょう。