認知症が一気に進む原因とは?進行を遅らせるためにできること

もの忘れや徘徊・失禁などの認知症の諸症状は、進行スピードに個人差があり、ゆっくりと症状が進む方もいれば一気に症状が悪化する方もいらっしゃいます。

認知症は脳細胞の働きが低下することで症状が悪化するメカニズムであり、脳細胞が急激に減少してしまったり、働きが低下してしまったりすると、認知症が一気に悪化する原因となります。

では、脳細胞が急激に減少してしまう原因、つまり認知症が一気に進む原因にはどのようなものがあるのでしょうか。本記事では、認知症が進行する仕組みとともに、症状が一気に進む原因と対策について解説します。

目次

認知症が一気に進む4つの原因とは?

認知症は、脳の細胞が破壊・減少してしまうことによって進行する症状です。そのため脳細胞へダメージを与えることとなる以下のような原因によって、認知症が一気に進むことがあります。

  • 脳への刺激不足
  • 急激な環境の変化
  • ストレス過剰
  • 失敗を責められる経験

それぞれ順番に解説していきます。

脳への刺激不足

自宅から出ない生活や人と会わない生活、寝たきりの生活などで脳への刺激が極端に少なくなることで、認知症が一気に進むことがあります

認知症を発症して徘徊の症状がみられ、外出中のケガによって寝たきり生活に切り替わったことで認知症が一気に進んでしまうケースは少なくありません。認知症の家族を気遣って、周囲の方が掃除・洗濯などをやってあげてしまうことが原因で、脳への刺激不足につながることもあります

また、老化に伴って耳が聞こえにくくなり、五感からの情報が少なくなることで外部からの刺激が減り、認知症が進むケースも多いです。

急激な環境の変化

病気やケガで入院する、または自宅での介護が困難となって施設へ入所するなど、周囲の環境が急激に変化することで、認知症が一気に進むこともあります。配偶者の方が亡くなり一人暮らしが始まったことや、家族との同居のために慣れ親しんだ自宅から引っ越すことも、認知症が進む原因になりえます。

これは周囲の環境が急激に変わることで、脳の機能が混乱し、不安や恐怖を感じることで認知機能が低下している状態です。これまで自分で行っていた掃除・洗濯・料理などの家事をする必要がなくなることで、脳への刺激不足が進むことも悪化の原因の一つです。

ストレス過剰

配偶者との死別で一人暮らしを余儀なくされたり、家族・友人とのトラブルに遭ってしまったりと、過剰なストレスによって認知症が一気に進むこともあります

大きなストレスは、脳内でストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌が過剰となり、記憶を司る「海馬」に悪影響を与えます。

その結果、記憶力の低下や認知機能の低下を招き、認知症の進行を早めてしまうのです。

失敗を責められる経験

認知症の方にとっては、周囲の家族に失敗を責められる経験が、症状が一気に進む原因となります。認知症によって大切な約束や手続きを忘れてしまったり、トイレの失敗が増えるなど、日常生活で失敗することが増えるのは珍しくありません。

こうした失敗に本人もショックを受けている中で、周囲から責められてしまうと自尊心が傷つけられ、意欲の低下につながります

意欲の低下によって趣味をやめてしまったり、認知症の治療に消極的になったりすれば、認知症が一気に進むこととなります。そのため認知症をサポートする周囲の家族の方には、ミスや失敗を責めたり老人扱いしたりすることなく、自尊心を守りながら支援することが求められます

認知症の種類ごとの進行スピード

認知症が進行するスピードには個人差があるほか、認知症の種類によっても悪化しやすさは異なります。ここでは代表的な以下4つの認知症について、それぞれの進行スピードについてご紹介します。

  • アルツハイマー型認知症
  • 血管型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症

家族に当てはまる認知症について、ここで理解を深めておきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も一般的な症状で、脳にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が蓄積することで発症すると考えられています。発症後は比較的ゆっくり進行することが特徴です。

主な初期症状として、もの忘れや言語障害、判断力の低下などが挙げられます。

関連記事:アルツハイマー病とは?病院は何科?検査・診断方法について解説

血管型認知症

血管型認知症は、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害を原因として発症する認知症です。

発症後は、階段のように段階的に進行していくことが特徴で、血管の状態が悪化するにつれて急激に悪化します。脳卒中の前後で急激な認知機能の低下が見られる場合、アルツハイマー型ではなく血管型の認知症と診断されます。

関連記事:血管性認知症とは?特徴・症状や原因、治療方法を医師が解説

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるたんぱく質が脳に蓄積することで、脳細胞が減少し認知症を引き起こす認知症です。

アルツハイマー型に次いで多く見られる認知症であり、調子の良い時と悪い時を繰り返しながら徐々に進行することが特徴です。

そのため症状が一気に進んだと思った翌日には改善していることもあり、周囲の家族からは認知症と疑われにくい性質を持ちます。

関連記事:レビー小体型認知症とは?症状や進行速度、原因と治療法について解説

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉・側頭葉の脳細胞が萎縮することで発症し、言語障害や性格の変化などの症状がみられます。アルツハイマー型と同様に、ゆっくりと進行することが特徴です。

もの忘れなどの認知機能の低下が見られることは少なく、認知症ではない別の精神疾患と診断されることもあります。

関連記事:前頭側頭型認知症とは?特徴(初期症状や進行速度、原因)を解説

認知症の進行を遅らせるためにできること

一度発症した認知症を完治させることは難しいですが、周囲の方のサポートによって一気に進行するのを防ぎ、症状の悪化を遅らせることは可能です。

ここでは認知症の進行を遅らせるための対策として、以下の4つをご紹介します。

  • 生活習慣を見直す
  • 有酸素運動に取り組む
  • 他者との交流を図る
  • 補聴器を活用する

これらの取り組みを日常生活に取り入れ、認知症の緩やかな進行を目指しましょう。

生活習慣を見直す

認知症が一気に進むことを防ぐためには、規則正しい生活を送ることが第一歩です。

昼夜逆転の生活となってしまう認知症の方は少なくありませんが、朝明るくなったら起床して夜暗くなったら就寝するという生活サイクルを取り戻すことが重要です。良質な睡眠を取ることで、睡眠中に脳の毒素を洗い流し、脳細胞や認知機能の維持にもつながります。

また、認知症の方が夜中に活動して家族の介護負担が重くなることも防ぐことができるので、日中は自宅で一人きりで過ごすのではなく、人と会話したり身体を動かしたりして、適度な疲労を感じてもらうことも大切です。

有酸素運動に取り組む

散歩や水泳といった軽い有酸素運動は、脳への血流を改善して認知機能を維持するほか、生活習慣病の予防にもつながるため積極的に取り入れると良いでしょう。

一緒に散歩や水泳を楽しむ仲間を作り、人とコミュニケーションを取りながら取り組むのも効果的です。

ただし、ランニングやサイクリングなど、ハードな有酸素運動はケガにつながるリスクが高まるほか、身体的に辛く習慣化しにくくなるデメリットもあるため、まずは無理のない程度の運動を継続することが大切です。

他者との交流を図る

認知症の方が日中に一人きりで過ごすのではなく、他者と交流しながら過ごすことにより、脳への大きな刺激となり、認知症の進行を遅らせる効果が見込めます。同居している家族などのよく知っている相手ではなく、離れて暮らす家族や孫、同年代の友人との交流の方が大きな刺激となります。

たとえば、デイサービスやショートステイを活用して同年代の方やスタッフの方と交流する機会を設けることで、脳へ刺激を与えることができます。他者と一緒に言葉遊びやパズルといった認知トレーニングに取り組むことによって、認知症を遅らせる効果が高まるでしょう。

補聴器を活用する

認知症が一気に進むことを防ぐために、補聴器を積極的に活用するのも良いでしょう。認知症の方にとって聴力の低下は、他者との交流が億劫になり、外部からの刺激が減少する原因となります。そのため家族との会話で聞き返すことが増えている場合や、話を理解していないのに相槌を打つ様子が見られる場合などは、かかりつけ医や耳鼻科を受診することをおすすめします。

現在では補聴器の性能も向上しており、本人の聴力に合わせたものを装着することができます。認知症の悪化を防ぐためにも、普段から補聴器を使用すると良いでしょう。

認知症が一気に進む前に専門医へ相談を

認知症は進行性の症状ではありますが、早期診断・早期治療によって症状の進行を遅らせて、生活の質を維持することが可能です。

そのためには、認知症かもしれないと疑われた時点で、すぐに受診することが重要です。認知症の診察は「もの忘れ外来」を設置している精神科の病院などで受け付けており、家族からの相談にも対応しているため、積極的に活用することをおすすめします。

認知症を放置して病気・ケガをきっかけに一気に進んでしまう前に専門医の診断や治療を受けることが、本人の方にとっても介護者となる家族にとっても、負担の軽減につながります。どこを受診したら良いかわからない時には、まずかかりつけ医に相談してみましょう。

当院・丹沢病院について

認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。(診断により、入院も可能です)

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

まとめ

認知症が一気に進む原因には、脳への刺激不足や急激な環境の変化、過剰なストレスなどが挙げられます。認知症の症状によって失敗することが増え、家族に責められることで症状が進んでしまうケースもあります

アルツハイマー型や血管型、レビー小体型といった認知症の種類によって症状が進行するスピードは異なりますが、いずれの場合にもなるべく早めに診断を受け、治療を受けることが大切です。

認知症の進行を遅らせるための対策として、睡眠サイクルを中心とした生活習慣の見直しや有酸素運動、他者との交流を増やすことも効果的なので、認知症が悪化する前にできることから始めてみましょう。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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