認知症の症状を段階ごとに解説|早まる原因についても【医師監修】

認知症は進行性の症状であり、時間経過とともに症状が悪化することはよく知られています。より正確には、前兆・初期・中期・末期の4つの段階で症状が進み、それぞれで特徴的な症状が表れます

両親や家族の方が現在どの段階の認知症なのかを把握しておくことは、今後の介護・医療の見通しを立てたり、適切なサポートを受けたりするためには欠かせません

本記事では、認知症の症状を4つの段階ごとに解説し、症状の進行が早まる原因や遅らせるための対策についてご紹介します。今後の認知症の進行を踏まえて適切なケアができるよう、認知症の段階ごとの症状について押さえておきましょう。

目次

認知症の4つの進行段階と主な症状

認知症の症状の進行は、一般的には以下4つの段階で進むとされています。

  1. 前兆(軽度認知障害)
  2. 初期(軽度)
  3. 中期(中度)
  4. 末期(重度)

それぞれの段階に移行する期間には個人差があり、薬物療法・非薬物療法を取り入れることによって進行を遅らせることは可能です。ここでは各段階の認知症でどのような症状が表れるのか、必要となる支援・サポートとともにご紹介します。

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1. 前兆(軽度認知障害)の症状

認知症の「前兆」の段階は軽度認知障害(MCI)とも呼ばれ、もの忘れなどの認知症の初期症状が表れつつある状態を指します。会話の中で言葉がスムーズに出てこなくなり、話していたことを数分後には忘れてしまうなどの症状が特徴です。

ただし日常生活に支障が出るほどのもの忘れ・記憶障害を起こしていないのが特徴で、加齢によるもの忘れと混同されることも非常に多いです。しかし認知症の場合には、脳のアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が蓄積されていることを確認できます。加齢によるもの忘れと早合点してしまうと認知症が悪化する可能性が高いですが、検査を受けて早期発見できれば、治療により進行を遅らせることができます

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2. 初期(軽度)の症状

認知症の「初期」の段階は、認知症の初期症状がはっきりと表れ、日常生活にも支障が出始める時期です。加齢によるもの忘れとは異なり、同じものを何度も買って帰ってきたり、料理の味付けが大きく変化したりと、周囲の家族にとっても明らかな異変を感じられる段階です。

初期段階では、もの忘れ(記憶障害)のほかにも、日付・時間・場所など自分が置かれた状況がわからなくなる見当識障害や、テレビの話や日常会話のスピードについていけなくなるほどの判断力・集中力の低下がみられます。これまで穏やかな性格だった方が急に怒りっぽくなったり、活力が低下してうつ病のような状態になったりするのもこの時期です。

3. 中期(中度)の症状

認知症の「中期」の段階では、もの忘れというよりも重い記憶障害が表れるようになり、新しい出来事が覚えられなくなるほか、自分で書いたメモの存在も忘れてしまうため、日常生活にも大きな支障が出ます。食事をしたこと自体を忘れて、何度も食事を要求するのもこの時期です。

今自分が置かれた状況を正しく認識できない見当識障害が悪化することで、徘徊が始まったり交通事故のリスクが高まったりする時期でもあります。認知症の方本人だけで自立生活を送ることも困難になるため、訪問介護やデイサービス、介護施設への入所などを検討する必要があります。

4. 末期(重度)の症状

認知症の「末期」の段階になると、自発的に会話することが減り、意欲の低下が著しくなるため、これまでの段階のような記憶障害が目立ちにくくなります。一方で人との意思疎通自体が困難になって家族のことも認知できなくなるほか、運動障害や嚥下障害、失禁などの症状が表れるため、常に介助が必要な状態になります。

寝たきりの生活になることも多く、免疫力の低下によって感染症のリスクが高まり、誤嚥による肺炎なども起こりやすくなるため、手厚い支援を受けなければなりません

認知症の進行が早まる原因とは?

認知症の進行には個人差がありますが、以下のような認知症を早める原因となるものがあると、認知症が悪化して次の段階に進みやすくなってしまいます

  • 脳への刺激不足
  • 失敗を責められるなどのストレス
  • 急激な環境の変化

認知症を悪化させるこれらの原因について詳しくご紹介します。

脳への刺激不足

認知症の進行が早まる原因として、脳への刺激不足が挙げられます。認知症の方をサポートしようと、周囲の家族が家事や買い物を先回りして取り上げてしまうと、本人の方が脳を使って活動する機会が減り、認知症が進みやすくなってしまうのです。

ケガや病気によって寝たきりになり、体を動かしたり人と会話したりする機会が少なくなることも、脳への刺激不足となり認知症が進む原因になります。

そのため認知症本人の方が自分でできることは極力任せるようにして、ケガや病気による長期入院を防げるように対策することが大切です。

失敗を責められるなどのストレス

認知症が進んで日常生活における失敗が増え、その失敗を周囲の家族に責められてしまうなど、大きなストレスにさらされるのも認知症の進行が早まる原因です。

認知症によるもの忘れを家族に指摘され、コミュニケーションを取るのが億劫になることも認知症の進行を早めてしまいます。

認知症による失敗で責められるのを避けようとして、意欲が低下して何事にも消極的になってしまい、自ら行動することを控えるようになってしまえば、脳への刺激不足も重なって症状が進行しやすくなるのです。

急激な環境の変化

急激な環境の変化によって認知症が一気に進むケースもあります。家族との同居のための引越しや、ケガ・病気による入院、介護施設への入所といった環境の変化が挙げられます。これは環境の変化が原因でこれまで行ってきた掃除・洗濯・料理といった家事ができなくなり、脳への刺激不足にもつながることが理由です。

ただし環境の変化が認知症の方の脳への刺激になり、新しい環境で過ごすことが認知症の進行を遅らせる要素になるケースもあります。介護施設に入所し、同年代の方やスタッフの方とのコミュニケーションが増えて活気ある生活を送れるようになったことで、認知症の進行が抑えられる例も多いです。

認知症の症状を遅らせるための対策

認知症の進行を遅らせるためには、認知症を悪化させる原因を取り除きながら、次のような認知症予防・対策に取り組むことが大切です。

  • 薬物療法・非薬物療法による治療
  • 有酸素運動を取り入れる
  • 他者とコミュニケーション取る機会を増やす
  • 補聴器を活用する

認知症の進行を緩やかにするためにも、これらの対策を積極的に実践してみてください。

薬物療法・非薬物療法による治療

現在のところ認知症の根本的な治療法はありませんが、認知症の進行を抑える薬を使った薬物療法、認知リハビリテーションをはじめとする非薬物療法により、症状の進行を遅らせることが可能です。認知症の前兆段階(軽度認知障害)であれば、適切な治療を受けることで認知機能を正常な状態に戻せるケースも存在します。

認知症を早期発見できれば、家族で今後の生活について話し合ったり、受ける医療・介護サービスについてじっくりと決めたりすることも可能です。認知症の初期の段階で早期発見し、早期治療を受けるためにも、「認知症かな?」と感じた時には早めに病院を受診することが大切です。

当院・丹沢病院について

上記でもお伝えしている通り、認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。(診断により、入院も可能です)

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

有酸素運動を取り入れる

薬物療法・非薬物療法以外の方法で認知症の進行を遅らせる方法として、日々の生活に有酸素運動を取り入れることが挙げられます。体を動かして脳への血行を改善できれば、脳を活性化させて認知症の症状を進みにくくすることが可能です。

認知症が悪化する原因となる高血圧・糖尿病といった生活習慣病の予防にも役立つため、これまで運動の習慣がなかった方は積極的に体を動かす機会を作ってみましょう。

認知症予防のための有酸素運動には、散歩・ウォーキングや水泳などが適しています。ハードな運動よりも軽く体を動かす運動から始め、ケガに注意しながら運動の習慣化を目指しましょう

他者とコミュニケーション取る機会を増やす

他者と積極的にコミュニケーションを取ることは、脳の活性化を促し、人生の楽しみを得るきっかけにもなります。相手のことをよく知る家族や友人との会話よりも、さまざまな思考を巡らせる必要がある初対面の相手との会話の方が、脳への刺激を増やすことが可能です。

そのため地域の趣味サークル・コミュニティに参加したり、同年代の方が入所する介護施設を利用したりすることも、認知症対策として有効です。自宅で家族の目が届く場所だけで過ごすのではなく、積極的に他者とのコミュニケーションを取るようにしましょう

補聴器を活用する

認知症の進行を予防するためには、聴力の低下に注意が必要です。聴力が低下して難聴が進むと、他者とのコミュニケーションを億劫に感じ、外部からの刺激が減って脳の機能が低下する危険性があるためです。何度も相手に聞き返すことにためらいを感じ、他者との会話を避ける傾向が強まると、認知症の方が孤立してしまう原因にもなります。

そのため加齢とともに話を聞き返す回数が増えるなど、聴力の低下が見られる場合には、早めに耳鼻科やかかりつけ医、認知症の専門病院などに相談すると良いでしょう。

まとめ

認知症の進行段階には、大きく分けて4つの分類がありますが、各段階ごとに特徴的な症状や必要となる支援が異なるため、認知症の家族が今どの段階なのかを定期的にチェックすることが大切です。

認知症の進行が早まる原因には、脳の刺激不足や失敗を責められることによるストレス、急激な環境の変化が挙げられます。そうした原因にも配慮しながら、有酸素運動や他者とのコミュニケーションを取る機会を取り入れ、認知症の進行を遅らせるように対策するのが大切です。

また、「家族が認知症かも?」と疑われる時には、できるだけ早めに病院を受診して認知症検査を受け、早期発見・早期治療を心がけることも重要です。認知症の段階が進む前に、適切な治療・サポートを受けて重症化を防ぎましょう。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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