認知症は精神科に入院できる!どのような治療方法が行われる?

認知症の家族を介護する中で、介護疲れを感じてしまったり、認知症の方からの暴力・暴言に悩まされたりするケースは少なくありません。自宅での介護が困難となり、認知症の方の健康や安全に影響が出てしまう場合も考えられます。このような状況では、認知症の方が精神科に入院し、薬物療法・非薬物療法により治療を行うことがあります

しかし誰でもすぐに入院ができるわけではないため、入院できる条件や入院する目的が気になっている方も多いでしょう。そこで本記事では、認知症で入院する目的や入院後の治療方法、退院後の選択肢などについて解説します。

目次

認知症は精神科で入院が可能

病院のイメージ

大前提として、認知症を理由とした入院は可能です。

認知症が進行し、自宅での介護が難しくなった場合に検討されることが多く、暴力・暴言や徘徊、妄想・幻想などの症状が考慮されます。ほかにも、ケガや病気で救急搬送されたタイミングで認知症の治療のための入院となるケースもあります。

認知症治療の入院先となるのは、精神科の病院や認知症疾患医療センターに指定された病院が挙げられます。認知症の専門医が在籍する病院では、認知症の入院だけではなく家族からの相談などを受け付けているため、まずは認知症についての相談を予約してみるのもおすすめです。

なぜ入院治療が行われるのか?認知症入院の目的

看護師のイメージ

「認知症は進行性の症状である」と聞いたことがある方の中には、なぜ入院して認知症を治療するのか、どのような治療を行っているのかが疑問に感じることも多いでしょう。

ここでは認知症の入院治療が行われる理由として、以下の3つのケースをご紹介します。

  • 精神保健福祉法による判断のため
  • 介護者の暮らしに影響が出ているため
  • 認知症専門医による診断のため

それぞれ順番に解説していきます。

精神保健福祉法による判断のため

認知症の入院治療が必要と判断される理由として、精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)にもとづいた判断が挙げられます

精神保健福祉法では、認知症の方本人の同意を得て入院する「任意入院」(第22条の3)のほか、入院治療を必要とする状態であるにもかかわらず本人を同意を得られない場合の「医療保護入院」(第33条)などが定められています。(※)

認知症の入院では上記の医療保護入院にあたるケースが多く、家族の同意が得られれば入院することが可能です。

※参考:厚生労働省「0727第3回精神科救急医療

介護者の暮らしに影響が出ているため

認知症が進行したことで施設への入所を拒否されたり、自宅介護に携わる家族の方に大きな影響が出たりしている場合にも、入院治療を行うケースがあります

家族への暴力・暴言や妄想・幻想、急に怒り出す・ひどく落ち込むなど感情のコントロールが困難な症状が見られる場合、入院治療が一つの選択肢となります。

認知症専門医による診断のため

認知症の方を診察する専門医が入院を必要とすると判断した場合にも、入院治療が行われます。

たとえば、認知症の投薬治療を実施するも、認知症の方本人が薬を飲むことを嫌がってしまい、このままでは認知症が悪化してしまうと判断される場合などに入院治療を検討します。

その際には、介護者の家族の方の意見も尊重されます。

認知症の入院後の治療方法について

看護師のイメージ

認知症の方の入院では、主に以下の3つの方法で治療が行われます。

  • 薬物療法
  • 非薬物療法
  • 手術による治療

それぞれどのように治療を行うのかを解説します。

薬物療法

薬物療法は、記憶障害や見当識障害など、認知症の中核症状の進行を遅らせるための治療です。

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症と診断された場合には、投薬による治療が行われます。

抗認知症薬として、アルツハイマー型は4種類、レビー小体型は1種類の薬が認可されており、認知症の重症度によって服用します。現在のところ認知症を根本的に治療する薬は開発されていませんが、薬物療法によって脳の神経細胞を活性化させて認知機能を維持し、不安やイライラを減らす効果が期待できます。

非薬物療法

非薬物療法には、作業療法やリハビリテーションが含まれます。作業療法では、脳への刺激を与えるために体操や、書道、塗り絵などのアクティビティに取り組みます。

リハビリテーションでは、散歩をはじめとする有酸素運動を取り入れる運動療法や、過去の出来事を他者に話すことで脳の活性化を図る回想法などが実施されます。

いずれも認知症の進行を遅らせることに加え、その人らしさを取り戻すきっかけを作り、周囲のスタッフや患者の方々とのコミュニケーションを取ることが目的です。

手術による治療

認知症とよく似た症状が現れる方の中には、「正常圧水頭症」または「慢性硬膜下血腫」と診断されるケースがあります。

これらの疾患は、CTやMRIで診断することが可能で、脳外科施術で改善する可能性がある疾患です。

手術による治療で認知症のような症状が大きく改善することもあるため、家族が認知症かもしれないと感じた時には早期診断を心がけることが大切です。

認知症の入院期間と退院後の選択肢

入院とベッドのイメージ

「認知症の入院は3ヶ月で退院を求められてしまう」という話を聞いたことがある方も多いかもしれません。

しかし実際には、認知症入院の退院時期は、一人ひとりの状況によって異なるため、一概に3ヶ月で退院を促されるとは限りません

退院先が決まらず家族からの同意を得られていないにもかかわらず、強制的に退院となるケースは考えにくいです。

なお、厚生労働省が発表した「令和2年(2020)患者調査の概況」によれば、アルツハイマー病の平均在院日数は273日と、約9ヶ月が目安となっています。

認知症の退院を促されるケースについて

認知症の方がケガ・病気で一般的な病院に緊急搬送されてそのまま入院となった場合で、徘徊や暴力などへの対応が困難となった際には、退院を余儀なくされることが考えられます

その場合には、認知症の治療を専門とする病院への転院を検討する必要が出てくるため、認知症疾患医療センターに指定された病院や認知症専門の精神病院へ早めに相談することが大切です。

認知症の方の退院後の選択肢

認知症の方が退院する際には、より認知症治療に特化した病院への転院、または認知症介護に対応した施設への入所を検討する方が多いです。

訪問介護やデイサービスを利用して自宅介護を行うことも可能ですが、認知症の方の要介護度の変化によっては、自宅での介護が難しくなることも考えられます。

退院先が決まらない場合や自宅介護が困難な場合には、入院先に在籍しているソーシャルワーカーなどの相談員に問い合わせたり、地域包括支援センターで相談したりすると良いでしょう。

認知症入院に必要な費用と利用できる制度

入院費用のイメージ

認知症の入院では公的な医療保険が適用されるため、経済的な負担を抑えることが可能です。

しかし長期にわたる入院では支払い総額が高額になることもあるため、認知症入院にかかる費用や負担を軽減できる制度を調べておくことが重要です。

ここでは認知症入院にかかる費用の目安と、費用負担を減らす制度について解説します。

認知症入院にかかる費用

認知症の入院で発生する費用は、月7万円〜30万円ほどが目安です。

入院費用だけであれば月7万円ほどが目安になりますが、医療保険の自己負担割合や差額ベッド代、家族が面会するための交通費などによって金額が上下することがあります

入院保証金として入院時にまとまった費用が発生することもあるため、事前に入院先の病院で大まかな目安を問い合わせておくと安心です。

関連記事:認知症で入院した場合の費用とは?専門病棟が詳細を解説

認知症入院の費用負担を減らす制度

認知症の入院は公的な医療保険が適用されることから、「高額療養費制度」を利用することができます

高額療養費制度は、1ヶ月あたりの医療費が一定の金額を超えた時、超過分の支払いが不要となる制度です

たとえば、年収370〜770万円の70歳以上の方(3割負担)で月100万円の医療費がかかった場合、本来の自己負担額は30万円ですが、高額療養費制度を使うことで1ヶ月あたり87,430円に抑えることができます

70歳以上の方は「高齢受給者証」を病院の窓口で提出することで、その場で高額療養費制度を使うことができるため、忘れずに提出するようにしましょう。

認知症の入院が必要かどうか悩んだ時は専門医に相談を

医者のイメージ

認知症の家族が入院できるかどうか、入院治療が適切かどうかを判断するためには、認知症を専門とする医師に相談することが重要です。

手術によって治る症状も存在するほか、認知症の治療は早期に取り組むことで進行を遅らせることができるため、一人で悩むことなく専門医を頼ることが大切になります。

認知症の初期症状として挙げられる、もの忘れや気分の落ち込みといった様子が見られたら、できるだけ早めに専門医の診察を受けるようにしてください。

「もの忘れ外来」を設置する認知症の専門病院では、家族からの相談にも対応しているため、気軽に利用してみると良いでしょう。

まとめ

認知症の方は入院して治療を受けることが可能で、精神保健福祉法による「医療保護入院」や、家族などの介護者への負担、認知症専門医の判断などを理由に、精神科に入院することができます

介護疲れによる家族の共倒れを防ぐために認知症入院を利用するケースも多いため、一人で抱え込むことなく認知症の専門医を頼るようにしましょう。

認知症の入院にあたっては、薬物療法・非薬物療法によって症状の緩和を目指しますが、認知症によく似た症状が現れる「正常圧水頭症」「慢性硬膜下血腫」では、手術による治療を行うこともあります。

どのような治療方法が行われるのかは一人ひとりの状況によって異なりますので、まずは入院治療が適切かどうかを含め、認知症の専門医に相談してみてください。

当院・丹沢病院について

認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。(診断により、入院も可能です)

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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