認知症は進行性のあるものとして知られていますが、早期に医療機関を受診して適切な治療を行うことで、進行を遅らせることが可能です。
しかし認知症が疑われる親御さんがいらっしゃる方の中には、病院に行くことを拒否されてしまうケースや、どのようにして病院に連れて行けば良いのかわからないケースも少なくありません。
そこで本記事では、認知症が疑われる親御さんを病院へ連れて行くために、どのような対処法を取れば良いのかを解説します。
受診を拒否されて認知症が進行してしまった場合、どのようなデメリットが発生するのかを含めて紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
認知症が疑われたら早期受診・早期治療が望ましい
認知症の初期の段階では、加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れを区別しにくいこともあり、病院に連れて行くのが難しいのが事実です。
特に比較的症状がゆっくりと進行するアルツハイマー型の認知症では、受診するタイミングが遅れてしまいがちな傾向があります。
しかし認知症の受診を先延ばしにした結果、徘徊によって行方不明になったり、意思疎通が難しくなってしまったりすることも考えられます。
そのため、大きな事故やトラブルを引き起こす前に、認知症かもしれないと疑いを持ったタイミングで早期受診、早期治療を始めることが、認知症の方にとってもご家族の方にとっても理想的な選択肢です。
早期受診することにより、認知症を引き起こしている病気を発見・治療することで、症状を軽減(進行を遅らせる)できることもあります。
認知症の親を病院に連れて行くなら「もの忘れ外来」の受診を
「認知症の親を病院に連れて行きたいが、何科を受診すれば良いのかわからない」
このように感じる方も少なくありません。
認知症の受診・治療は、主に精神科や脳神経内科・脳神経外科を標榜する病院で受け付けています。
また、当院・丹沢病院も含めて、認知症対策の専門医資格を持った医師が在籍する病院では「もの忘れ外来」を設置し、認知症の方を専門に受診・治療しています。
お住まいの地域でもの忘れ外来を受け付けている病院があれば、積極的に受診すると良いでしょう。
周辺地域でこれらの科目がある病院が見つからない場合には、まずはかかりつけ医に相談することをおすすめします。
認知症の親を病院に連れて行くための方法
周囲のご家族の方が「認知症かもしれない」と感じたとしても、認知症の方本人にとっては病院を受診することに抵抗感があり、プライドや尊厳を傷つけられたように受け取るケースが多くあります。
そのため認知症の自覚がない親御さんを病院に連れて行くためには、無理に嘘をついて連れて行くことはせず、以下の方法を実践することが大切です。
- かかりつけ医に相談する
- 訪問診療(往診)を依頼する
- 健康診断を提案する
- 近所の方や友人に促してもらう
- 地域包括支援センターで相談する
それぞれ詳しく解説していきます。
かかりつけ医に相談する
認知症の自覚がない親御さんを病院に連れて行くためには、まずはご本人が信頼を寄せているかかりつけ医など、第三者から受診を促してもらうことが効果的です。
家族から受診を勧められて拒否感を持ってしまう方であっても、医療の専門家から早期受診・早期治療の重要性を説いてもらい、信頼できる医療機関を紹介してもらうことで、受診へのハードルを下げることができます。
訪問診療(往診)を依頼する
親御さんの受診拒否が強い場合には、医療機関に相談して訪問診療(往診)を依頼することもおすすめです。
まずは訪問診療に来てもらうことで親御さんに安心感を持ってもらってから、病院に行くことを促すと良いでしょう。
すでに寝たきりの方や移動が困難な方、ご家族の都合が合わない方にも役立つため、認知症の訪問診療に対応している病院を活用してみましょう。
健康診断を提案する
認知症の親御さんを病院に連れて行くための方法として、「健康診断の受診」として通院を促すことが挙げられます。
認知症の受診と比較すると心理的なハードルが下がるほか、全身の健康チェックにも役立つため、健康寿命を延ばすためにも積極的に提案してみると良いでしょう。
事前にかかりつけ医に相談し、かかりつけ医から健康診断を提案してもらうようにお願いするのも効果的です。
近所の方や友人に促してもらう
認知症の自覚がない親御さんを病院に連れて行くために、近所の方や友人の方と連携を取り、同年代の同じ立場の方から受診を促してもらう方法もあります。
同年代の方から病院で認知症の検査を受けたエピソードや、早期治療によって病気の進行を抑えたエピソードなどを聞くことで、親御さんにとっても病院を受診しやすくなることが期待できます。
普段から親御さんの周囲の方とのコミュニケーションを取り、円滑な連携が取れるように備えておくと良いでしょう。
地域包括支援センターで相談する
認知症の親御さんを病院に連れて行くことが難しい場合、介護を始めとする高齢者のサポートを行っている「地域包括支援センター」に相談することもおすすめです。
地域包括支援センターでは、認知症の専門医と連携し、認知症をはじめとする健康・生活に関する悩みを幅広く受け付けています。
認知症と診断された後の介護保険サービスについての相談にも対応しているため、親御さんのお住まいの地域の担当センターの連絡先を入手しておくと良いでしょう。
認知症を拒否して受診しないとどうなる?
認知症が疑われる親御さんの受診拒否が強く、病院に連れ行くことができずに診断・治療が遅れてしまうと、以下のような事態に発展してしまう可能性があります。
- 認知症の治療が間に合わなくなる
- 受けられる医療・介護サービスの選択肢が狭まる
- 家族や介護者の負担が大きくなる
無理やり連れて行ったり嘘をついたりして受診を強要するのは避けるべきですが、どのような事態が考えられるのかを把握しておきましょう。
認知症の治療が間に合わなくなる
認知症の受診が遅れて症状が進行してしまうと、治療の効果が低下してしまう可能性があることに注意が必要です。
認知症は進行性の病気ではありますが、早期に受診して投薬治療を始めることにより、症状の進行を遅らせることが可能です。
「正常圧水頭症」「慢性硬膜下血腫」などの認知症を引き起こしている病気を発見し、早期に対策することで認知症を治せるケースも存在します。
「うつ病」や「せん妄」など、認知症と間違われやすい病気を適切に診断・治療することで、症状を改善できることも多いです。
だからこそ、早期発見が重要になってくるのです。
受けられる医療・介護サービスの選択肢が狭まる
認知症が進行し、仮に寝たきりになってから認知症と診断された場合、在宅介護か施設介護かの二択しか選べない状況となってしまう可能性も考えられます。
一方で認知症を早期に受診して治療を始めることにより、今後の医療・介護サービスの選択肢が広がります。
判断力がある時期から親御さんの意思を尊重しながら医療・介護サービスを選べるようになるため、ご本人にとってもご家族にとっても後悔のない生活を送ることが可能です。
家族や介護者の負担が大きくなる
親御さんの認知症の診断が遅れることで、ご本人はもちろん、ご家族や介護者の負担が重くなる点にも注意が必要です。
たとえば認知症の周辺症状が強く表れ、暴力や徘徊が伴うようになってしまった場合、介護施設に預けることができず在宅介護が必要になることもあります。
また痰の吸引や胃ろうなどの医療処置が必要となった場合にも、医療行為が受けられない介護施設では入居を断られる可能性が高まります。
その結果、ご家族をはじめとする介護者に重い負担がのしかかるケースも珍しくないため、早期受診・早期治療が求められるのです。
認知症の親を病院に連れて行く時に家族が押さえておきたいポイント
最後に、認知症の親御さんを病院に連れて行く時、ご家族の方が押さえておきたい姿勢や心構えについてご紹介します。
- ご自身が心配・不安なことを伝える
- 嘘をついて無理やり受診させない
- 現在の症状や必要な支援を把握する
これらのポイントを踏まえた上で、親御さんと接するようにしてください。
ご自身が心配・不安なことを伝える
認知症の自覚がなく受診を拒否する親御さんであっても、心の中では違和感を感じていたり、漠然とした不安を感じ始めていたりすることがあります。
そうした親御さんの背中を押してあげるように、「お母さんの健康が心配なの」と、ご自身が心配していることを伝えてあげましょう。
親御さんに対して愛情を表現し、心配や不安の気持ちから受診を提案していることを伝えることにより、病院へ向かう原動力となります。
嘘をついて無理やり受診させない
認知症の親御さんを病院に連れて行く際、やってはならないこととして、嘘をついて無理やり受診させることです。
いくら心配だからと親御さんとの信頼関係を崩すような行動に出てしまうと、その後の治療や通院にも悪影響が出てしまいます。
親御さんに対しては嘘偽りではなく本心を伝え、心から「あなたの身を案じている」というメッセージが伝わるように行動しましょう。
現在の症状や必要な支援を把握する
親御さんを病院に連れて行った時に適切な診断が受けられるよう、そして適切な支援が受けられるよう、現在の親御さんの状況や問題を整理しておくことも大切です。
どのような症状・行動から認知症を疑い始めたのか、できること・できないことは何か、どのような支援を必要とするのかを把握しておくことにより、スムーズに認知症対策へ取り組めるようになります。
ご自身が気になっていることや不安に思っていることも病院でしっかりと伝えることで、心が軽くなり親御さんの認知症にも向き合えるようになるでしょう。
まとめ
認知症の自覚がない親御さんを病院に連れて行くためには、まずかかりつけ医に相談したり、訪問診療を利用したりして受診へ一歩を踏み出すことが大切です。
近所の方や友人の方と連携して通院を促したり、まずは病院ではなく地域包括支援センターに相談したりするのも効果的です。
認知症を受診しないまま症状が進行してしまうと、認知症治療が間に合わなくなるか、受けられる医療・介護サービスの選択肢も狭まってしまいます。
何よりご家族や介護者の方の負担が大きくなってしまうため、できるだけ早期に受診・治療を開始することが大切です。
ただし、その際には嘘をついて無理やり受診させることなく、ご自身が本心から心配して受診してほしいことを伝えるようにしてください。
現在の症状や必要な支援を整理しておくことで、スムーズな認知症対策が可能になりますので、事前に用意してから病院に向かうようにしましょう。
認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます。
当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。
なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。
※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。
まずは下記からご相談ください。