認知症で1人暮らしはできる?限界が来るタイミングについて解説

現在では65歳以上の高齢者の半分以上が一人暮らしで生活しているというデータがありますが、認知症を発症した場合には物忘れや判断力の低下が進み、一人暮らしに限界が訪れるタイミングがあります。

また、認知症の一人暮らしでは、火災や事故、金銭トラブルといったリスクにも直面することから、周囲の家族や福祉による的確なサポートが欠かせません。

本記事では、認知症でも一人暮らしができるのかという疑問に対し、考えられるリスクや限界が来るタイミング、認知症の一人暮らしでも受けられる支援サービスなどについてご紹介します。

目次

高齢者世帯のうち一人暮らし(単独世帯)は51%以上の割合に

厚生労働省が発表した『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況』のデータによれば、2022年の高齢者世帯1,693万世帯のうち、単独世帯は873万世帯と、51.6%の割合を占めていることがわかっています。

つまり、高齢者世帯のうち一人暮らしで生活している方が半分以上であることを示します

その内訳として、男の単独世帯が313万世帯(35.9%)、女の単独世帯が559万世帯(64.1%)というデータとなっており、女性の一人暮らしの方が男性の約2倍多いことも判明しています。

高齢者世帯のうち単独世帯に当てはまる世帯数は、年々増加傾向にあります。今後も一人暮らしの高齢者世帯は増え続けると予想され、一人暮らしの父母・祖父母が認知症を発症し、支援が必要となるケースも増えていくと考えられます

認知症でも一人暮らしはできるのか?考えられるリスク

一人暮らしをする老人のイメージ

一人暮らしの高齢者が認知症を発症すると、ご本人が気づかないまま症状が進行してしまうことも考えられます。

周囲の家族の方が違和感に気づいて病院を受診した際には、すでに一人暮らしが難しくなっているケースも珍しくありません。

ここでは認知症で一人暮らしを続けた場合に考えられるリスクについて、下記の4つをご紹介します。

  1. 自宅の火災リスク
  2. 外出時の迷子・事故のリスク
  3. 服薬や生活習慣の悪化リスク
  4. 金銭トラブルに巻き込まれるリスク

1. 自宅の火災リスク

一人暮らしの方の認知症が進行することで、もの忘れや理解力・判断力の低下を招き、火の不始末を原因とする火災リスクが高まります

コンロの火を消し忘れたり、ストーブ・ヒーターを止め忘れたりすることで、自宅が火事に遭ってしまうのは珍しいことではありません

喫煙の習慣がある方の場合、タバコの火の不始末によって火災に発展することも考えられます。

2. 外出時の迷子・事故のリスク

認知症の中核症状の一つである「見当識障害」により、今がいつなのか、ここがどこなのかが把握できなくなり、外出時の迷子・事故のリスクが高まることもあります

見当識障害が進行することで、自分が置かれた状況を正しく認識できなくなり、自宅に帰れなくなってしまうのです。

3. 服薬や生活習慣の悪化リスク

一人暮らしの高齢者の認知症が悪化すると、服薬や生活習慣の管理が困難となります。その結果、薬の飲み忘れや飲み過ぎによって、持病が悪化するリスクが上昇します

また、食事の食べ過ぎや栄養バランスの欠如、期限切れの食品やカビが生えた食品を食べてしまうなどの行動によって、体調の悪化や生活習慣病の併発を引き起こすこともあります。

4. 金銭トラブルに巻き込まれるリスク

認知症の方の一人暮らしでは、不要な契約を結ばされたり高齢者を狙った詐欺被害に遭ったりと、金銭トラブルに巻き込まれるリスクも高まります

金銭管理が難しくなるため、家賃や電気・水道料金の滞納を起こす可能性も出てきます。

同じ商品を大量に買ってしまうケースや、お金が盗まれたのではないかという妄想によって家族とトラブルになるケースも存在します。

認知症の一人暮らしで限界が来るタイミングは事故・トラブルが急増した時

火事のイメージ

ここまで認知症の方の一人暮らしにおいて直面するリスクについて解説してきましたが、これらのリスクの危険性が高まるのは、事故・トラブルが急増したタイミングです。

栄養状態の悪化やボヤ騒ぎ・交通事故、転倒による怪我、周囲の方々との揉め事が増えるなどの出来事が連続した時には、一人暮らしの限界であると考えて良いでしょう。

そのまま一人暮らしを続ければ、認知症の方の命に危険が及ぶ可能性も高まります。できるだけ早めに病院での診察を受け、家族や介護保険サービスによる支援を検討することが重要です。

認知症の親の一人暮らしになる前にできる対策

介護される老人のイメージ

引っ越しの都合などで認知症の親が一人暮らしになってしまう時、一人暮らしの親に認知症の兆しを感じた時には、早めに以下のような対策に取り組むことが大切です。

  • 配偶者や兄弟・親戚と認知症について共有する
  • 同居や施設への入所を検討する
  • 頼れる相談先や支援サービスを確認しておく

認知症の方の安全や健康を守り、QOL(Quality Of Life:生活の質)の低下を防ぐためにも、それぞれのポイントを押さえておきましょう。

配偶者や兄弟・親戚と認知症について共有する

認知症の方の一人暮らしは長期的に維持することは難しく、家族によるサポートや介護が必要となります。その際に、あなた自身が一人で親のサポートを行うのは現実的ではありません

介護や手続きの負担を軽減するためには、配偶者や兄弟・親戚と親の認知症について話し合い、定期的な見守りや金銭的なサポートを分担して行うと良いでしょう。

その際には、家賃や光熱費の支払いや役所での手続きなどを担当する、介護のキーパーソンを決めておくと安心です。親の財産を守るため、「成年後見制度」の利用も検討してみることをおすすめします。

関連記事:家族の認知症のケアにおける5つのポイントを解説【専門医監修】

同居や施設への入所を検討する

認知症の一人暮らしで限界を感じた時には、家族との同居や施設への入居を検討することも大切です。

家族が親の近くに引っ越したり実家で同居したりすることにより、認知症の進行にもいち早く気づくことが可能になります。

頻繁にコミュニケーションが取れる話し相手がいることで、一人で孤独に暮らすよりも認知症の進行を遅らせる効果も見込めます。

同居が難しい場合には、実家近くの施設または家族の自宅近くの施設への入居を考えてみましょう。老人ホームやグループホームをはじめとする高齢者向けの施設を利用することで、集団生活による刺激や専門スタッフからの支援を受けられるため、認知症の方本人のQOLが高まることも期待できます。

頼れる相談先や支援サービスを確認しておく

認知症の一人暮らしでは、介護保険サービス、介護保険外サービスを含めてさまざまな支援サービスを受けることが可能です。

必要な支援サービスを必要な時に受けられるよう、地域包括支援センターやかかりつけ医と連携しながら確認しておくと安心です。

また、家事代行サービスや見守りカメラ、食事宅配などは、認知症の程度に関わらず利用することが可能で、高齢者の一人暮らしの生活を支えてくれるサービスです。こうした介護保険外サービスも活用しながら、認知症の一人暮らしをサポートしていきましょう

身寄りなし・認知症の一人暮らしでも受けられる支援サービス

認知症に関わるサービスのイメージ

認知症の一人暮らしで受けられる支援サービスとして、国や自治体が用意している手厚い制度が存在しています。

家族が遠方に住んでおり直接的な支援が難しい場合や、身寄りがない高齢者の場合にも利用することができますので、それぞれの制度を確認しておくと良いでしょう。

  • 介護保険サービス
  • 自治体の支援サービス
  • 日常生活自立支援事業

ここでは上記の3つの支援サービスを解説します。

介護保険サービス

介護保険サービスは、「要介護認定」を受けた方が受けられるサービスで、訪問介護・デイサービス・ショートステイなどの支援を受けることができます

介護保険サービスを利用すると、認知症の方の介護について相談できたり、介護のためのリフォームで補助金が支給されたりするメリットがあります。

合計26種類、54のサービスが介護保険サービスの対象となっていますので、まずは病院や自治体の窓口を通して認知症の要介護認定を受け、必要な支援サービスを申し込むと良いでしょう。

自治体の支援サービス

お住まいの自治体によっては、認知症の一人暮らしでも利用できる独自の支援サービスを提供していることがあります

安否確認や家事・買い物の代行、認知症カフェ、サロン活動の支援など、自治体ごとにさまざまな種類がありますので、利用できる支援サービスがないか自治体の窓口で相談してみると良いでしょう。

日常生活自立支援事業

日常生活自立支援事業とは、認知症により判断力が低下した高齢者の方を支援するため、地域の社会福祉協議会が実施しているサービスです。

社会福祉協議会の職員が定期的に訪問し、日常生活で必要な事務手続きや金銭管理、通帳や契約書などの書類の預かりといったサービスを受けることができます。

ただし、日常生活自立支援事業への申し込みは認知症の方本人が手続きする必要があり、家族の希望だけでは利用できない点に注意してください。

親の認知症に気づいたら専門医に相談して早めの診断・治療を

医者のイメージ

認知症は診断・治療を受けることなく放置してしまうと、もの忘れや見当識障害がさらに進行し、徘徊・抑うつ・失禁などの周辺症状も現れやすくなります

長く健康に過ごしてもらい、周囲の方の介護負担を軽減するためにも、認知症は早期診断・早期治療を受けることが非常に重要です。

認知症を放置することなく早期に発見して適切な治療を行うことにより、発症や進行を遅らせることができるからです。

そのためもの忘れや判断力の低下、気分の落ち込みといった認知症の初期症状が見られた時には、できるだけ早めに「もの忘れ外来」などの認知症専門医に相談するようにしてください

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします。

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています。

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

まとめ

認知症の初期段階では一人暮らしすることは不可能ではなく、自治体の支援サービスや日常生活自立支援事業を活用することにより、QOLを高めながら生活することができます

しかし一人暮らしでは認知症の症状が進行しやすく、自宅の火災や迷子・交通事故、金銭トラブルなどに巻き込まれるリスクが高まるのも事実です。特に認知症の方の周囲で事故・トラブルが多発した時は、一人暮らしの限界を迎えたと考えて良いでしょう。

認知症の方の一人暮らしを支えるためには、兄弟や親戚を含めた家族全体でサポートすることや、同居・入所を検討することが大切です。

認知症は、要介護認定を受ければ介護保険サービスを利用できるほか、適切な治療によって発症・進行を遅らせることが可能なので、早期診断・早期治療を心がけるようにしましょう。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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