家族の認知症のケアにおける5つのポイントを解説【専門医監修】

認知症と診断されたご家族を持つ方は、本人の尊厳を傷つけることなく身の回りのフォローをしていくために、どのようにアプローチしたら良いのかわからずに悩む方も多いでしょう。

認知症の初期段階の方であれば、周囲のサポートをあまり必要としないこともありますが、そのまま放置すれば認知症が進行しやすくなることもあります

そこでご家族をはじめとする周囲の方が心掛けたいのが「認知症ケア」です。認知症ケアとは、本人の尊厳を傷つけることなく、その人らしい暮らしを送れるように支援することを指します

本記事では、ご家族の方が認知症と診断された場合に実践したい認知症ケアについて、具体的な支援方法や本人を傷つけることなく接するポイントについて解説します

家族の認知症の介護にもう限界…心を軽くするための解決策【医師監修】

目次

認知症ケアとは

カウンセリングを行う医者のイメージ

認知症ケアとは、認知症と診断された方の尊厳や個性を損なうことなく、その人らしい人生をまっとうできるように支えることを指します。

認知症により見失われがちな、その人の可能性や願いを汲み取りながら、身体的なサポートだけでなく精神的なサポートを含めた生活全般の支援を行います

認知症ケアの具体的な方法

介護者のイメージ

認知症ケアの具体的な実践方法として、代表的なのは以下の3つです。

  • 安心できる環境づくり
  • 健康管理・リハビリ
  • コミュニケーション・スキンシップ

それぞれ順番に解説していきます。

安心できる環境づくり

ご家族の方ができる認知症ケアとして、安心して過ごせる環境づくりが挙げられます。

認知症の方は認知機能の低下によって不安やプレッシャーを感じやすくなっており、金銭管理や置き忘れなどの生活障害が見られることもあるからです。

たとえば、物が多く注意力が散漫になってしまう部屋では、貴重品を紛失する可能性が高くなり、あちこちに気を取られて集中力が低下してしまうことが考えられます。

また、ライター・マッチや包丁・ハサミなど、事故や怪我のもととなる物は、認知症の方の手が届かない場所に移動させておきましょう

その他洗剤や化粧品の誤飲対策、失禁防止のためのトイレまでの生活動線の確保なども大切な認知症ケアの一つとなります。

健康管理・リハビリ

認知症の進行を抑制するためにも、日頃の健康管理やリハビリを支援することも大切な認知症ケアです。認知症の方は、ご自身の体調の変化に気付きにくく、家族や医師に伝えることも難しくなります。

そのため周囲の方が日々健康を観察し、症状の悪化や体調不良の兆候に注意を払う必要があります

また、認知症の方に合わせたリハビリを実施することは、症状の悪化を予防するだけではなく、現在の体力・筋力や生活能力を知るのに役立ちます。

階段の上り下りのような運動や、料理・掃除といった日常生活における活動をすべて排除するのではなく、ご自身が興味・関心を持った活動は積極的に支援することが大切です。

コミュニケーション・スキンシップ

認知症の方を孤独にさせることなく、こまめなコミュニケーションやスキンシップを取ることも重要な認知症ケアの一つです。

ご家族との信頼関係が失われてコミュニケーション不足になると、ご自身の願いや気持ちが伝えられず、症状を悪化させる原因となってしまいます

認知症の方との会話を避けたり否定したりすることなく、しっかりと耳を傾けてあげるようにしてください。本人が今何がしたいのか、どのような気持ちでいるのかを知ることが、認知症ケアの第一歩となります。

家族の認知症ケアにおける5つのポイント

調査のイメージ

ご家族の方が認知症ケアに取り組む際には、認知症ケアの基本的な考え方を知り、適切な心構えを持って認知症の方に接することが重要です。

ここではご家族の方の認知症ケアにあたって押さえておきたい5つのポイントについてご紹介します。

  1. 先回りせず相手のペースに合わせる
  2. 失敗や間違いを責めない
  3. 相手の尊厳を守る
  4. 環境の変化は少しずつ慣れさせる
  5. 認知症の方を孤独にさせない

一つずつ解説していきます。

先回りせず相手のペースに合わせる

認知症ケアにおけるご家族の心構えとして、認知症の方のやりたいことを先回りすることなく、ご本人のペースに合わせることが大切です。

料理や掃除、着替え、趣味などの自分でできることは無理に手伝うのではなく、安全に取り組めるよう見守るようにしましょう。

周囲の方が焦る気持ちから行動を急かしたりしてしまうと、ご本人のペースが崩れて興奮させてしまうことがあるため注意が必要です。

失敗や間違いを責めない

認知症の方が失敗・間違いを冒したとしても、感情的に叱ったり厳しく指摘したりしないように心がけることが認知症ケアの基本です。

家事やトイレなど、これまでできたことを失敗してしまったことを叱責すると、認知症の方にとっては自尊心が傷つけられたと感じてしまいます

その結果、うつ状態や無気力・無関心、あるいは暴力・暴言といった周辺症状が悪化することがあるため、失敗や間違いに対してもご本人を責めることなく、寄り添う意識を持つことが大切です。

相手の尊厳を守る

認知症の方も尊厳が損なわれるような対応をされれば、当然傷ついてしまいます

認知機能の低下によって周囲の方にとっては意味がわからない行動を続け、何度注意しても改善されずに強い言葉を浴びせてしまうことがあるかもしれません。

ご本人にとってプライドが傷つけられたように感じると、ご家族との信頼関係が崩れ適切な認知症ケアが難しくなるため、支援する際には尊厳ある一人の人間を相手にしていることを意識しましょう。

環境の変化は少しずつ慣れさせる

認知症の方の介護のため、介護施設への入居やご家族と同居するための引越しなど、環境の変化が伴うことも多いです。

介護のためのリフォームや模様替えなども含め、ご本人の周りの環境が変化するときには、少しずつ慣れさせることも認知症ケアのポイントです。

介護施設への入居や引越しの際には、まずは一泊するだけにとどめるなど、急激な環境の変化で混乱を招かないように配慮しましょう。

認知症の方を孤独にさせない

ご家族の方ができる認知症ケアとして、認知症の方を孤独にさせない配慮も大切です。

定期的に声をかけてコミュニケーションを取り、積極的にスキンシップを図ることは、ご本人の心を安定させるのに役立ちます。

認知症の方が一人でいる時間が長くなると、認知機能の低下が進み、徘徊や記憶障害などの症状が現れやすくなります

症状の進行を緩やかにするためも、周りのご家族で協力しながら認知症ケアを行いましょう。

認知症でよくある症状と家族を傷つけない接し方

徘徊している老人のイメージ

認知症ケアを実践するにあたっては、記憶障害や失禁などの症状に対して、どのように接するべきか迷う方も多いです。

ここでは認知症でよくある症状に対して、ご家族がどのように対応すると良いのかをご紹介しましょう。

記憶障害(もの忘れ)の対策・接し方

認知症の中核症状の一つである記憶障害(もの忘れ)に対しては、「忘れる」という特性を利用した接し方が効果的です。

たとえば、昼食を食べたばかりなのに「昼ごはんはまだ?」と何度も催促してくる状況が挙げられます。ここで「さっき食べましたよ」と事実を理解してもらおうとしても、「いいえ、食べてません」と反感を買うことになります。

こうした記憶障害に対しては、「もうすぐできるからね」「作るのを手伝ってくれる?」など、待っているうちに忘れてくれるように接してみると良いでしょう。

見当識障害の対策・接し方

自分が今どこにいるのか、今日は何月何日なのかといった現在の状況を把握しにくくなる「見当識障害」に対しては、認知症の方の不安に寄り添いながら環境を整えることでアプローチしましょう。

たとえば、「今日は何日だっけ?」と聞いてくるのは、具体的な日時が知りたいというよりも、今置かれた状況がわからず不安になっている状態と言えます

その際に介護者が毎回受け答えすることが大変に感じる場合には、目立つ場所に大きなカレンダーを設置しておき、一緒にカレンダーを確認してご本人に納得してもらえるように工夫してみましょう

徘徊の対策・接し方

認知症の方の中には、通勤や買い物をしようとして外出したが目的や帰り道がわからなくなり、徘徊につながってしまうケースも多いです。

徘徊の兆候が見られる場合には、できるだけご家族の方が外出に付き添い、満足したら家に連れ帰ってあげることが理想的です。

とはいえ、ご家族の方にとっても常に付き添うことは難しいもの。このような場合は、連絡先を書いたカードを首から下げてもらい、玄関ドアにベルを設置して外出したことがわかるように工夫してみましょう。

認知症の方がよく足を運ぶスーパーや商店街が決まっている場合には、一人で徘徊していた時には連絡してもらえるように依頼しておくと安心です。

失禁の対策・接し方

認知症ケアを行う方にとっては、認知症の方の失禁に大きなストレスを抱えることが多いでしょう。

認知症の方の羞恥心や焦りによって、汚れた下着を隠してしまうなどの問題行為につながってしまうこともあります。

その場合にも失禁や問題行為を強く責めるのではなく、ご本人の生活リズムを把握しながら定期的にトイレを促すと良いでしょう。

失禁した時の掃除や洗濯も、気にするそぶりを見せずさりげなく始末することを心がけましょう。

暴言や暴力の対策・接し方

認知症になってから急に怒りっぽくなるなど、感情を抑えられずに暴言・暴力が見られることもあります。

これは認知症の進行とともに感情をコントロールする力が低下し、自分の気持ちを表現しにくくなるストレスからくるものと考えられています。

このような行動対して周囲のご家族の方が反発してしまうと、症状が増幅してしまう危険性があります

そのため、別のことに注意を逸らしたり、一旦その場を離れて時間を置いたりする対策が効果的です。

なお、手に負えないほど激昂してしまうようであれば一度医師に相談しましょう。

家族の認知症ケアでは介護者のケアも重要

イライラする女性のイメージ

家族の認知症ケアでは、認知症の方本人へのケアだけではなく、介護者となる方自身のケアも重要です。

ご家族の介護を一人で抱え込んでしまうと、認知症の方に対して厳しくあたる可能性が高まるほか、介護者の方がうつ状態となり共倒れになることも考えられるためです。

介護者自身のケアとして、デイサービスやショートステイを活用しながら自分の時間を確保したり、医師やケアマネジャーの方をはじめとする周囲の人に相談したりすることが効果的です。

介護者の方の生活を守るためにも、認知症ケアで心身のバランスが崩れてしまわないようにしましょう。

まとめ

家族が認知症と診断された場合にも、周囲の方が適切な認知症ケアを実践することにより、症状の進行を抑えてその人らしい生活を送れるように支援することが可能です。

認知症ケアに取り組む際には、安心して暮らせる環境づくりや健康管理、認知症の方を孤独にさせないためのコミュニケーションが大切になります。

また、認知症の方の行動を先回りせず相手のペースに合わせて支援したり、プライドを持った一人の人間であることを忘れずにサポートすることも重要です。

ただし周囲のご家族など介護者への負担も大きなものとなりますので、時には息抜きをするなど介護者自身のケアも大切にしましょう。

当院・丹沢病院について

認知症は、症状によっては薬と保持機能の活用で発症や進行を遅らせることができ、早い治療によって健康な時間を長くすることができます

当院・丹沢病院(精神科・心療内科・内科)では認知症を専門とする医師が在籍し、患者様に適切な治療を実施いたします

なお、ご本人が受診したがらない、まずはご家族だけで相談したい、というお考えやお悩みをお持ちのご家族さまのためにも、医師による「もの忘れ相談」 を開設しています

※ご本人様同伴でのご来院はもちろん、ご家族のみでのご来院も可能です。

まずは下記からご相談ください。

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この記事の監修者

丹沢病院院長。認知症サポート医の資格所有。認知症に関する多くの講演実績を持っており、患者だけでなく、その家族に対しての不安・悩みにも寄り添い、サポートを行ってきました。「認知症はとにかく早期に発見し、治療することで、進行を緩やかにすることができる」ということです。あなた自身のためにも、そしてご家族のためにも、不安に感じられることがございましたら、まずは当院にお気軽にご相談ください。

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