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2025年04月01日

論文・発表・出版物実績

医師のワークライフバランスとスキルアップについて

最近、「直美」という言葉を初めて知った。初見で「ナオミ」ってなんぞや?と思った。「直美」とは「チョクビ」と読み、初期研修を終えた医師が後期研修等をせずに、いきなり美容外科クリニックに勤めることを指すそうだ。後期研修と比べると遥かに多額な報酬を得る一方で、当直が無く、時間の融通がきくらしい。お金と時間の両取りが叶うなら、「直美」はワークライフバランスの”究極形態”と言えるかもしれない。しかし、杜撰な診療など様々な問題もあるため、学会もガイドライン作成に乗り出していて、必ずしもワークライフバランスの”最適解”とは言い難いようだ。
 私が医師になったのは、新医師臨床研修制度開始直前で、もう20年以上も前のことになる。その頃の医師の勤務実態がどのようなものであったかは、「最近の若者は・・」と嘆く世代の先生方には説明不要であろう。当時、「(患者さんの)QOL」という言葉はあったが、「(医師の)マイQOL」といった言葉はなく、それらに対する配慮も皆無だった。上司や先輩への返事は、「はい」「イエス」「喜んで」の三択のみで、時間もお金も自分自身には全く還元できない環境の中で、私は研鑽を積んできた。
 しかしその後、医師の働き方に対する考え方に変化が起き始める。最初は遠慮がちに、しかし加速度的に、”権利の主張は当たり前”といった風潮が、かつてないほど高まってきた。最近では更に時代の流れに後押しされ、「3K」「パワハラ」「マイQOL」「タイパ」といった言葉も味方につけながら、ワークライフバランス遵守に傾倒している感さえある。その一方で、スキルアップについてはおざなりになっている気がして憂慮している。もちろん熱心な若手の先生も大勢いるのだが。
 私は先輩たちから、「学位は取ることが重要なのではなく、取る過程こそが重要だ」と諭されてきた。学術的な研究はもちろん大事なのだが、医療業界内外の人々との立体的な人間関係や、医師としての社会性は、その過程においてこそ育まれるからだ。例えば、社会常識ゼロだった私は、MRさんから名刺交換の仕方や、スーツのジャケットの前ボタンを外すタイミングまで教えてもらった。そして、20年以上経った今でも先輩たちの言葉は私の中で生き続けていて、そうして育まれた姿勢が、結果的に自分のスキルアップにつながってきたのだと思う。
 何も「学位」を取るべきだと言っているのではない。後期研修を含めて専門医等を目指す過程が、医師人生において長期的なスキルアップに繋がると、私は強く信じているのだ。「直美」では、それは難しいのではないだろうか?だからこそ、これからの「医師の働き方改革」は、ワークライフバランスとスキルアップの両方のバランスが取れたものとなるように期待したい。

神奈川県医師会 勤務医部会報 2024.12 掲載分より引用
丹沢病院 院長 関口 剛